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文化的消費活動の日記

谷川健一 『谷川健一著作集 第7巻 女性史篇: 女の風土記 無告の民』

民俗学者谷川健一が女性史について言及した新聞連載や雑誌への寄稿を集めた本。『女の風土記』と『無告の民』という著作のワンセット。昔の人だし、書かれた時代(70年代前半)も古いし、今日の水準でこの本が「役に立つ女性史の本」か? と問われると相当な疑問が残る。というか、問題の方が多かろう。

たとえば、人身売買されて海外に娼婦として売られた、いわゆる「からゆきさん」が戦時中、国のために多額の寄付をおこなっていた、という点に対して「体を売って作った金を国のために使って、彼女たちはえらい!(近代日本のナショナリズムを彼女たちの汚い金が支えていた!)」みたいな形で、ひどい搾取を美化してストーリーを作っている感じ。そうした事実を掘り返して、伝えていることには価値を感じるし、実際面白いエピソードには枚挙にいとまがない。

けれど、その伝え方は「自分は男」(だから女の苦労はわかんない)みたいな突き放し方だと思うし、そもそも、男性優位の立場にどっしり腰を下ろして、女性を評価するような書きぶりである。ここまで谷川健一の著作をいろいろ読んできているが、この本が一番搾取を美化するやり方(要するに昔の日本にはこんなひどいことがあったんだぜ、それを耐え忍んでいた人たちはえらいでしょう! という話の作り方)がエグい。ある意味、谷川のストーリー作りの基本がこの本に一番現れている、とも言えるかも。

ただ、からゆきさんが地球上のどこまで到達していたのか、とか、戦時中の日本のスパイが馬賊に捕まった際、大陸に入り込んでいた日本人娼婦たちに何度も命を助けられていた、とか、紹介されている話はとても面白い。少し継続して調査してみたいポイントもいくつか見つかった。

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若桑みどり 『フィレンツェ: 世界の都市の物語』

フィレンツェ (講談社学術文庫)

フィレンツェ (講談社学術文庫)

 

イタリアのルネサンスマニエリスム期絵画研究で著名な研究者によるフィレンツェ案内。フィレンツェという都市の成立から、フィレンツェ、といえばもちろん、メディチ家であり、その一族の隆盛から没落までを描きつつ、最後はメディチ家が収集した美術品を収蔵しているウフィツィ美術館で見ることのできる作品をネタにしながら西洋美術の鑑賞の仕方について、図像学・図像解釈学に迫る……というもの。正直、都市の歴史と政治の歴史についての記述はかなりマニアックなものだと思うのだが、政治史と美術史が深く絡み合って語られるものだからなかなか読み飛ばせない。ダ・ヴィンチミケランジェロラファエロ……といっただれもがその名前を知っている天才たちを庇護していたのは時の権力者、であったのだから、その語りも当然といえば当然か。新婚旅行でいったフィレンツェ、また行きたいな、って思ったりもする。

2017年夏までに飲んだ焼酎

https://www.instagram.com/p/BPzo8kDDkj3/

#今日の一本 森伊蔵酒造 / 森伊蔵 定期的ないただきもの(義父がくれる)。お湯割りでいただくと、ホントにお芋そのものの香りである。しかしながら、すごい高級感。 

https://www.instagram.com/p/BRqKgVfh0fz/

#酒 一刻者〈茜〉、限定出荷らしい。めちゃくちゃフルーティ!

全量芋焼酎 一刻者 〈茜〉25% 720ml

全量芋焼酎 一刻者 〈茜〉25% 720ml

 

https://www.instagram.com/p/BTOBSXJBDke/

#酒 本坊酒造 / 大自然林 屋久島の女性杜氏によるいも焼酎。まろやかさと甘みが素晴らしい。

https://www.instagram.com/p/BUof5tABanF/

#酒 黒木本店 / 中々 先日の大分出張で麦焼酎に開眼。麦はすべての食事に合いそうな気がする。美味です。

https://www.instagram.com/p/BWARQfOBTU3/

#酒 #nouvelle風流 夏なんで、泡盛の一升瓶で。

泡盛 仲間酒造 宮の鶴 30度 1800ml

泡盛 仲間酒造 宮の鶴 30度 1800ml

 

https://www.instagram.com/p/BWpMlZNh0uU/

#酒 #焼酎探訪 柳田酒造 / 赤鹿毛 麦。宮崎の。これは素晴らしいな……。麦の香りと、柔らかい甘みのバランスが最高で。ソーダ割りは爽快感がすごいです。ハートランドのボトルには焼酎:水を6:4にしたものが入っています(前割りの仕込み)。

麦焼酎 赤鹿毛(あかかげ) 1.8L

麦焼酎 赤鹿毛(あかかげ) 1.8L

 

大分出張でたまたま飲んだ麦焼酎で「開眼」してしまい、麦をいろいろ攻めていっている。割って飲んでいる時の、食事の邪魔をしない感じは麦が一番良い。かと言って、味がしないわけではない。アルコール度数をビールぐらいうすーく割っても「お酒」の個性が伝わってくるし、なににでも合う。汎用性が高すぎる。

ハイボールや水割りを飲むのに良いグラス

ここ最近家で飲むものといえば、焼酎のソーダ割りや水割りが主で(もちろん、ビールも飲むのだけれど、焼酎を一升瓶で買って割って飲むことのコスパの良さに気づいてしまって)。これまでハードリカーを割って飲むときは、ロングカクテル用の細長いタンブラーを愛用していたんだけれど、それが割れてしまったから、新しいタンブラーを買い求めたのだった。

「酒飲みなら、グラスにはこだわりたい」とか言ってたのは、池波正太郎だったか、伊丹十三だったか。「この酒を飲むなら、このグラスだ!」みたいな理想のイメージがわたしのなかにもある。今回浮かんだイメージとしては、口にあたる部分が薄くて、飲み屋でサントリーの山崎だとか白州のハイボールを頼むとたまにウイスキーの銘柄名がプリントされてでてくるようなタンブラー、みたいなやつ。

東洋佐々木ガラス タンブラー 薄氷 うすらい 食洗器対応 日本製 B-21112CS
 

で買ったのが、これ。

https://www.instagram.com/p/BWofIRBBNJq/

極薄で有名な「うすはり」(松徳硝子)ほど繊細なつくりではないのだけれど、充分満足できる薄さであって、日常的に気兼ねなく使えそうな頑丈さ、そして値段の安さにおいて、すごく良い。これにたっぷりの氷をいれて、前割りの焼酎なんかを注いで飲むと、寝かせたことでよりまろやかに感じられる焼酎の甘みがさらに濃く感じられるよう。「そうそう、こないだ店で飲んだ前割りの焼酎って、こんなだったわ」と思った。

ロベルト・ボラーニョ 『通話』

[改訳]通話 (ボラーニョ・コレクション)

[改訳]通話 (ボラーニョ・コレクション)

 

ボラーニョの小説を読むのはこれが4冊目。第1短編集だがボラーニョの作家性のエッセンスを感じられ面白かった。ボラーニョを読むならまずこの一冊からか。冒頭を飾る「センシニ」が「架空の作家を主題にした小説」というボラーニョらしい一篇で、しかも大名作。「架空の作家もの」はこの他にも複数収録されているが、同じスタイルの作品ばかりではない。本短編集におけるカメレオン的にさえ思える作品のさまざまなスタイルは、作家のテクニックが只者ではないことを示している。ミステリータッチのものもあれば、(レイモンド・カーヴァーの小説にでてきそうな)報われない人生を送る女性が主人公の作品もある。どの作品もリリカルで、どの登場人物もつねになにか満たされないものを抱えて彷徨っているように見える。

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今福龍太 『クレオール主義』

クレオール主義―パルティータ〈1〉 (パルティータ 1)

クレオール主義―パルティータ〈1〉 (パルティータ 1)

 

文化人類学者、今福龍太の主著。1991年に初版刊行以降、改訂や改版を繰り返して来た本の「完全版」ということらしい。ラテンアメリカを中心にさまざまな言語や文化が混じり合った土地についての考察が集まっている。

失われた景観がそこにある。
それは、歴史とよばれる嵐が無垢だった土地の上にひとときの幻影にも似た繁栄をよびこみ、やがて非常に立ち去っていったあとに残された瓦礫のような光景だ。喧騒から静寂への急激な変化が、土地に住む人々の耳に夢のような幻聴をもたらし、隣人の消滅は人々の舌を凍りつかせ、夕暮れの飼い犬たちを寡黙にさせた。衰退と喪失のイメージが色濃くたちこめるなかで、土地の風景は歴史によって荒廃を深め、断片化され、それが本来持っていた「意味」を鋭く変容させられていった。

はじめてこの本を手に取ったとき、その語り口に強く惹かれたのだった。土地の風景や、人々の暮らし、そしてそこで問題視される権力の問題、それらが語り進められると同時に喚起されるイメージの豊饒さがたいへん魅力的な本である。

本書で日本のことが語られることはない。けれども、ここでの非中心的なまなざし、というか、疎外されたものへの視線、マイナーなものに対する言葉に触れていると、いま、我々が自分たちの住んでいる国に言及するときに、無視されているものが自然と意識にあがってくる。「日本」、「日本人」を語るときに、その言葉でくくられているもの(逆に、そのくくりから外されているもの)はなんなのか。それを明確にすることによって、いかなる権力がそこで働いているかも明確にすることができる。

2017年6月に聴いた新譜

怒涛の5月が終わった、と思ったのだが怒涛の6月が続いており、気がつくと女性ヴォーカルのR&Bばかり聴いていた気がする。

シャロン・ベンソン

シャロン・ベンソン

 

なかでも良かったのは、シャロン・ベンソン。90年代R&Bに売れ損なった英国のR&Bのアルバムの再発とのこと(松尾潔のラジオで流れていた)。大変に名曲揃いであって、聴いてると昨今のR&Bのトレンドのなかに90年代のエッセンスがいかに取り込まれているのかをしっかりと理解できるような。


Sharon Benson-Rock Me Down

とくにこの曲は、今月、仕事が終わった帰りの電車のなかで、自然と聴きたくなった。甘やかな調べに包み込まれ、リラックスできる。

Voyager [帯解説・歌詞対訳 / ボーナストラック2曲収録 / 国内盤] (BRC549)

Voyager [帯解説・歌詞対訳 / ボーナストラック2曲収録 / 国内盤] (BRC549)

 

アメリカのMoonchild(裸の太陽〜、で有名なMoon Childではない)もめちゃくちゃ聴いた。メロウもメロウ、どメロウすぎてもはやイージーリスニングの域に達している気もするのだが最高。超オシャレ。超モテそう。

3-D THE CATALOGUE

3-D THE CATALOGUE

 

Kraftwerkが近年続けていた3D映像付きのライヴ・ツアーの音源をまとめたものも今月前半はよく聴いていた気がする(なにせ、これ、CDでいったら8枚組なので時間をとられるわけである)。改めて聴いたら「テクノのパイオニア、的な語られ方するけど、そんなに踊れる曲があるわけじゃないし、牧歌的な音楽だよなぁ……」と思う。メディア・アーティストのようだけれども、そこまで先駆的なことをやっているわけではないし、もはやベンチャーズとか伝統芸能の世界に近い。もはや時代のほうが彼らの考えていた「未来っぽさ」を追い越してしまって、彼らの音楽が携えているムードが「永遠のレトロ・フューチャー」というか、小松崎茂的な世界観に落ち着いてしまっている。そこが良いんだけれども(最新機材を使っても、昔の曲が大きく変わるわけでもないし)。

サニーデイ・サービスの新譜、Apple MusicとSpotifyの配信でしかリリースしないというヤツも良かったな。前作『DANCE TO YOU』の延長線上、かつ、より密室におけるダンス・ミュージック的な雰囲気が高まっている。ceroとかああいう今様R&Bに呼応する日本の若いバンドの影響が曽我部恵一にもきているのか?、と思ってしまうのだが、「曽我部恵一の音楽」の大枠をまったく超えておらず、その結果、かなり独特な音楽になっている気がする。

Ctrl

Ctrl

 

シザのファーストは待望の、といっても良かった。ずっと彼女の活動を追ってきた、というわけではないのだけれど、ここ1年ぐらいR&Bを聴いていたら、やたらとヴォーカル参加で名前を見て、彼女の参加している曲がことごとく刺さったから。派手な感じは全然ないんだけれども、とにかく声が好きで。

Collxtion II

Collxtion II

 

同時期にでたカナダ出身のSSW、アリー・エックスも面白く聴いていた。これ、なんかちょっとK-Popっぽい感じがあって。トラックには力を感じてカッコ良いのだけれども、ヴォーカルにそこまで力強い感じがない(下手なわけではないのだが、結構脱力系のヴォーカルである)、そのバランスの悪さがK-Popっぽいし、あと、そもそものメロディラインがK-Popっぽいのだった。 

何度でも新しく生まれる(DVD付)

何度でも新しく生まれる(DVD付)

 

先月も言及したMondo Grossoだが、まだアルバムのほうはよくわかってない。ひさびさにUAの歌声を聴いたな、と思ったが……。

Another Love Song

Another Love Song

  • アーティスト: NE?YO
  • 出版社/メーカー: Digital Distribution Palestinian Territory Occupied
  • 発売日: 2017/05/30
  • メディア: MP3 ダウンロード
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ニーヨのシングル。ニーヨによるブギー、と松尾潔のラジオで紹介されていて、すげえ繰り返し聴いた。エグエグ、ブリブリのブギーじゃなくて、ちょっとソフトな感じなのが、ニーヨのセンスなのか。この路線でアルバムが来たら、最高だろうな、と期待が高まる。 

I'm Not Your Man

I'm Not Your Man

 

マリカ・ハックマンにはビックリした。これが2作目となるアルバムだそうだけれども、センス爆発。宅録っぽい空気感のなかで初期のレディへやニルヴァーナを彷彿とさせるものを見せてくれる。

The Extinct Suite

The Extinct Suite

 

昨年のセカンド・ソロ『Tender Extinction』に引き続いてのスティーヴ・ジャンセンのサード。1トラック、1時間弱の組曲で、セカンドを再構成したもの、という位置付けらしい。ほとんど全編がアンビエントなドローンによって占められたインストなのだが、時折、スティーヴ・ライヒ的なリズミカルな要素がでてきて、ハッとさせられるような美しさがある。

The Singles [帯解説 / HQCD(高音質CD)仕様 / 国内盤] (TRCP214)

The Singles [帯解説 / HQCD(高音質CD)仕様 / 国内盤] (TRCP214)

 

Canのシングル集。「Future Days」にシングル・エディットとかあったのか! と驚きつつ聴く。

Sintetizamor

Sintetizamor

 

ジョアン・ドナート、御歳82歳が息子のドナティーニョと組んだ衝撃のアルバム。ブギー・ディスコのトレンドを完全に取り込んで「ブラジルのDaft Punk」みたいなことになっている。ジャケットの狂気具合もすごい。 

Weather Diaries

Weather Diaries

 

Ride、21年ぶりのアルバムとのこと。初めて聴いたが、tdさんが狂喜するのも納得のサウンド、というか、こんなの嫌いになれるわけがないでしょう、というギター・サウンド。

覆面女性R&Bシンガー、H.E.R.のセカンド。「ザ・今様R&B」って感じで内容はもちろん悪くないのだが、覆面、であることによって損してる部分もあるよな、と思わなくもなかった。結局、歌を聴くときに、その歌い手のパーソナリティとか汲みながら聴いたりするわけで。覆面であることは、歌い手への共感であるとか、感情移入とかの手がかりを完全絶ってしまうことになる。

Deep green

Deep green

 

chelmicoのMC MAMIKOのソロ。これもシャレオツな感じで良かったな。 

Destiny

Destiny

  • アーティスト: シェネル,間智子,Mario“Silver Age”Parra,クリス・ジャクソン
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック
  • 発売日: 2017/06/14
  • メディア: CD
  • この商品を含むブログを見る
 

あとシェネルの「Destiny」もカッコ良かった。このシンガー、最近初めて知って、May J.的な、ハーフ系の方かと思ってたんだけど「え、日本人じゃないの?(しかも、日本語喋れないの!?)」と衝撃を受けた。山下達郎が英語喋れないことを知ったときと逆ベクトルの衝撃、というか。表題曲は松尾潔作詞。