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文化的消費活動の日記

村上春樹 『村上さんのところ』

 

村上さんのところ (新潮文庫)

村上さんのところ (新潮文庫)

 

 2015年に運営されていた村上春樹がファンから寄せられる質問メールに答えるサイトの書籍化。先日文庫本になっていたので、ちょうど軽いものが読みたい瞬間があったので手に取る。たしかリアルタイムでもサイトをほとんど追っていた気がする。毎回面白い回答がされているわけではなく、質問に質問で返すような、相手を脱臼させるような回答も多くあるのだが、おおむね面白く読んだ。とはいえ、大部分を流し読みしてしまっているのだが、それでもいくつかの質問と回答は記憶に残るものがある。

とくに鑑別所で村上春樹の著作に出会って、それからずっとファンである、という質問。これは村上春樹の作品へのファースト・アプローチのシチュエーションとしては、かなり珍しい部類なのではないか、と思う。その珍しさが、なにか物語的なエピソードとして成立しているような気さえする。端的に「そういう人生もあるんだ」という気づきがあって。

それから複数の質問者が「不倫を書いているのはいかがなものか」、「セックスについて書きすぎなのではないか」と質問の形をした主義主張をおこなっているのも印象に残る。なにが「いかがなもの」なのか。本が人に与える影響を多く見積もり過ぎな人間の存在を改めて確かめられるようである。じゃあ、ドストエフスキーを読んだら金持ちのおばあさんを殺す事件が増えるのか、とか思ってしまうんだが。

『DARK KNIGHT バットマン: ダークナイト』

DARK KNIGHT バットマン:ダークナイト(ケース付) (SHO-PRO BOOKS)

DARK KNIGHT バットマン:ダークナイト(ケース付) (SHO-PRO BOOKS)

 

 こないだようやくクリストファー・ノーランの『ダークナイト』三部作を全部観終えて(劇場では『ダークナイト』しか見てなかった)その流れでコミックの『ダークナイト』も読んでみた。

いったい何周遅れなんだ、という感じなのだが、これ、映画の原作じゃねーのかよ! と読みはじめて気がつく。『ダークナイト・リターンズ』と『ダークナイト・ストライクス・アゲイン』を収録。いずれも50代後半を超えたブルース・ウェインが頑張る話なのだが、まぁ「映画の原作も読んでみるか」と思って読んだ人は、なんじゃこりゃ、と思うであろう。一応、トゥー・フェイスもジョーカーもでてくるけれど。

「『ウォッチメン』にならぶグラフィック・ノベルのマスターピースのひとつ」ということだけれども、いきなりコレから入るのはキツそう。いろんなキャラクターが説明なしにでてくるし(注釈付きの冊子を適宜参照しないと全然わからない)、絵もガチャガチャしてるし、正直に言うと、あんまり好きじゃない。が、一方で、大変に現代的な話であるなぁ、と思う。その現代性は『ダークナイト』、『ダークナイト・ライジング』とも通ずる。

 とくに『ダークナイト・リターンズ』。ここでのバットマンは、ほとんどポピュリズム集合的無意識が肉体を持った姿として現実化した市民代表の「私刑執行人」のようである。バットマン自らの正義感ももちろんあるのだけれど、徹底してバットマンは市民と怒りを同化させながら、自分の行動を正当化し、モチベーションを保とうとする。ブルース・ウェインはそれでとっても気持ちよくなっているのである。

ブルース・ウェインって完全に変態じゃねえか、と思いつつ、義憤に駆られて私刑を加えようとするインターネット・ユーザーの姿とものすごく重なるよなぁ、と思うのだった。1986年に発表された作品なのだが、いまだったらバットマンTwitterエゴサしまくって叩くべき悪を見つけてるに違いない。「RTされた数だけ悪人をぶっ飛ばします」みたいなことつぶやいたりして。

バットマンの私刑執行人らしさは、公的な権力代表であり、要するにアメリカ政府の正義代表になっているスーパーマンとの抗争によってハッキリするのだが、あんまり詳しく書くとネタバレになるのでこのあたりで止めておこう。続編『ストライクス・アゲイン』は、登場人物がさらにややこしいのでキツかったのだが「悪」の存在は、『リターンズ』よりも明快。こちらもフェイクニュースとかポスト・トゥルース的なものとの戦いが描かれている。

息子は生後10ヶ月、買ってよかったもの

 

https://www.instagram.com/p/BjyFsraFBrI/

また気づいたら一ヶ月以上育児日記を投稿していなかった。息子は生後10ヶ月を超して近頃は音楽に対して激しく体を動かすなどの反応をするようになった。当然もっとも好きなのは「おかあさんといっしょ」と「いないいないばあっ!」であるのだが、休みの日に一緒にYoutubeで父親である俺が好きな音楽のPVを見せてやると、楽しそうに見ている。ブルーノ・マーズ、JB、Television、Geisha GirlsThe SmithsZazen Boys……。大丈夫か? というラインナップだが、息子はいつも楽しそうだ。

https://www.instagram.com/p/BiapM7GFTMT/

ところで、今日は最近買って良かったものについても書いておきたい。

息子はハイハイ & つかまり立ちで自由に部屋を動き回る、まさにアンファン・テリブル恐るべき子供たち)の領域であり、ローテーブルだの空気清浄機だの家具を手押し車のごとく押して歩いたりしてしまって困っていたのだが、そんなときに上記の滑り止めシートが役にたった。適当な形にカットして、テーブルの足に挟む、空気清浄機の下に敷くだけで、あんなに動いた家具がピクリともしない、大人の力でも容易には動かないのだからすごい。育児の困りごとは大抵のことがホームセンターで解決されるのではないか、と思ったりもした。

「ルネサンス・バロックのブックガイド」に寄稿しました

www.kousakusha.co.jp

TwitterFacebookでは告知してましたが、ブログで告知するのを忘れてたので再度お知らせします。工作舎のサイトで公開されているブックガイドシリーズに山田俊弘さんの『ジオ・コスモスの変容』に関する記事を寄稿しました。これまでペンネームでWEBニュースサイトへコラムを書く仕事をしていたこともあったのですが、本名名義ではこれが初となります。当企画にはもう一本記事を書いており、書籍としても出版される予定です。ぜひ、ご笑覧いただければと思います。

関連エントリー

sekibang.hatenadiary.com

2018年5月に聴いた新譜

GOOD THING [LP] (180 GRAM, DOWNLOAD) [12 inch Analog]

GOOD THING [LP] (180 GRAM, DOWNLOAD) [12 inch Analog]

 

 「4月はいちばん無情な月」とでも言うべき感じだったが5月はやや落ち着けた。やはり心がダメだと耳もダメだなぁ……。なかでもリオン・ブリッジズの新譜は最高だったな。2018年のベスト10に確実に入ってくるであろう名盤。R&Bのレガシーを強烈に感じさせるのだが、ブギーなどのトレンドの音も実に適切に導入してきて痺れた。

BEYONDLESS [帯解説・歌詞対訳/ボーナストラック1曲収録/国内盤] (OLE13762)

BEYONDLESS [帯解説・歌詞対訳/ボーナストラック1曲収録/国内盤] (OLE13762)

 

 デンマークのIceageの新譜も素晴らしかったなぁ。おお、さらに垢抜けましたね、って感じで。単なるJoy Divisionフォロワーから大きく花を開かせつつあるように思った。

DIRTY COMPUTER

DIRTY COMPUTER

 

 ジャネール・モネイは先行で公開されていた曲が激烈にプリンスっぽくて心が踊ったが、全編が公開されたときに冒頭の曲が「フィーチャリング ブライアン・ウィルソン」というまさかの組み合わせで魂消た。あまりブライアン・ウィルソンが参加する必然性は感じないのだが、わ! ブライアン・ウィルソンだ! って思う記名性の高さ。

ALL THE TIME [LP] (180 GRAM, NEW 2018 ALBUM LED BY FOUNDING MEMBER OTIS WILLIAMS) [12 inch Analog]

ALL THE TIME [LP] (180 GRAM, NEW 2018 ALBUM LED BY FOUNDING MEMBER OTIS WILLIAMS) [12 inch Analog]

 

 老舗R&Bヴォーカル・グループ、The Temptationsの新譜も最高。すげえジジイたちがえげつないほどにヒット曲をカヴァしまくる内容で、これがアメリカのR&B芸能の懐の深さだな、と感心した。なかでもジョン・メイヤーのカヴァが良かったな……。

It Takes Two

It Takes Two

 

 先月のWeekendの新譜はあんまりピンとこなかったが、この人のは新鮮に聴けた。 

CONFIDENT MUSIC FOR CO

CONFIDENT MUSIC FOR CO

 

 こちらはtdさんのブログで知る。抗えない音だったな……。CSS(もはやかなり懐かしい)や、Cut Copy(これはこのアルバム経由で最新作のリリースに気づいた)を彷彿とさせる、イケイケの音楽であった。広尾のハンバーガーショップでオシャレな女性に囲まれながらBLTサンドを食べてたらサムシングを感じた。

POLY LIFE MULTI SOUL (通常盤)

POLY LIFE MULTI SOUL (通常盤)

 

 話題作。このバンドがDCPRGみたいなサウンドに寄っていくとは思わなかったが、まったくハマれず。歌が上手くないバンドにはまったく反応しなくなっているんだな……と思ってしまった……。

DRANK [帯解説] (BRC568)

DRANK [帯解説] (BRC568)

 

 サンダーキャットの『Drunk』のチョップド & スクリューでエディットされた盤。オリジナルは「期待してたのに、全然だな……」という感じで配信で済ませてしまっていたのだが、これは最高だったな……むしろ、こっちは正調なのでは、っていう感じのハマり方。

インスピレーション

インスピレーション

 

 なんかこないだのロイヤル・ウェディング的なイベントで演奏を披露していたらしい。今注目のチェロ奏者のアルバム。メインがショスタコーヴィチの協奏曲第1番で、そこにボブ・マーリーとかレナード・コーエンの曲が入っているという、センスありすぎでしょう、そういう売り方嫌いじゃないぜ、と思う一枚だった。メインがまた聴かせる演奏で、この曲といえば、ロストロポーヴィチ、マリア・クリーゲルやアルト・ノラスの演奏が名盤だし、彼・彼女らのテンポ設定がスタンダードとして刷り込まれているのだが、この若い演奏者はそれよりもずっと落ち着いたテンポで聴かせるのだからすごい。

Ofertório (Ao Vivo)

Ofertório (Ao Vivo)

 

 そしてカエターノ・ヴェローゾが3人の息子と組んで開催したコンサート・シリーズのライヴ盤。正直カエターノのスタジオ盤はまだか、と思わなくもないが、ファンとしてはマストアイテムである。しかしよ、息子よりもカエターノの歌声のほうが瑞々しいんだからすごいよね……。

夏の天才

夏の天才

 

そしてSpank Happy。まさか新曲が聞けるとは。 

千葉雅也 『メイキング・オブ・勉強の哲学』

 

メイキング・オブ・勉強の哲学

メイキング・オブ・勉強の哲学

 

自己啓発本を偽装した哲学書」、『勉強の哲学』はいかにして書かれたかを解き明かすドキュメントであり、執筆メソッド・思考術に関する良書。そこでは哲学・思想の言語が用いられていることを考えれば、これも哲学書・思想書として分類できるだろう。紙 + 手書きによるアイデア出しから、TwitterEvernoteなどのツールを駆使しつつ、WorkFlowyによって構造化されたアウトラインによる分析・検討、時には他人との対話……というプロセスを経て、あの恐ろしくリーダブルな哲学書が執筆されたことがわかる。わたし自身すでに使っているツール、書き方も紹介されていたりするんだけれど、それがどういう風に意味づけられるのか、を再確認させてくれるところも面白かった。

関連エントリー

sekibang.hatenadiary.com

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AirPods買ったんだ日記

https://www.instagram.com/p/BjcO8C4Fmu1/

#物欲番長 最近ハンズフリー通話しながら移動することが増えてきたので、AirPodsが欲しいなぁ、アレ、良いのかなぁ、と思っていた。で、たまたまクレカのポイント確認したら、すげえポイント溜まってたので、それを使って。俺も耳からうどんを生やしている人に。接続方法の簡単さやiPhone、Macとの連携の良さ、そして「まるでつけてない感覚」はかなり良い。音質がカナル型と比べるとアレだが、これは良いな。ところで、ハンズフリー通話、アレ、未来人になったみたいな気分になるから、やっているあいだ、いつも軽いドヤ顔です。

Apple AirPods 完全ワイヤレスイヤホン Bluetooth対応 マイク付き MMEF2J/A

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