sekibang 3.0

Nouvelle茶人、あるいは勉強家によるブログ

2018年7月に聴いた新譜

 

MY COLOR(2CD/初回限定盤)

MY COLOR(2CD/初回限定盤)

 

怒涛、地獄の1ヶ月だったため、ほとんど記憶なし。とりあえず、Negiccoの新譜は最高だったことははっきり覚えている。配信だけで済まそうかと思ったけれど、初回限定盤の2枚目(メンバーのソロシングル曲を集めたものとShiggy Jr.提供曲)を聴かなければ本作は完成しないであろう。「スマホに映らない」が大名曲過ぎて、これ、シングルカットしてほしいぐらい。

THE FUTURE & THE PAST [12 inch Analog]

THE FUTURE & THE PAST [12 inch Analog]

 

こちらはアナログも買った。USの女性SSWの新譜。近年の90年代大懐古祭(ブルーノ・マーズをひとつの頂点とした)の流れを感じさせつつも、過去のレガシーを洗練をもって消化した名盤。露骨さやネタっぽい「あえてコレです」という感じがないのが大変新鮮。A面一曲目は、まるでZazen Boysのようでもある。 

ANTHROPOCENE(アントロポセン)

ANTHROPOCENE(アントロポセン)

 

これはすごい。日本語ポップスの新たな金字塔、とでも言うべきか。環ROYの声、ラップがまず最高だし、とにかく音が気持ち良い。「コンサート」で聴きたくなるような、広がりをもった音。

Hamilton de Holanda Trio - Jacob 10ZZ

Hamilton de Holanda Trio - Jacob 10ZZ

 

 ブラジルのバンドリン奏者、アミルトン・ヂ・オランダの新譜は伝説的なバンドリン奏者、ジャコー・ド・バンドリンへのトリビュート。もう悪いわけがない。もっと穏やかな気持ちで、耳が開いているときに聴きたかった。

Brasileiro

Brasileiro

 

MPBの新譜。この人の音楽を聴くのは初めてだがカエターノ・ヴェローゾ直系という感じ。

All Ashore

All Ashore

 

ネオブルーグラス。フロントマンのクリス・シーリは、バンド外での活動も目立ったが、バンドのほうも最高。

 ただただ癒やし……。

【Amazon.co.jp限定】VLP( オリジナル缶バッジ(A柄)付)
 

 カッコ良し。

T. S. エリオット 『荒地 / 文化の定義のための覚書』

 

荒地/文化の定義のための覚書 (中公文庫 エ 6-1)
 

 きまぐれに手を伸ばしてみたが……。

丸谷才一 『無地のネクタイ』

無地のネクタイ

無地のネクタイ

 

2012年に亡くなった作家、丸谷才一のエッセイ。2003年から2004年、そして2010年から亡くなる直前まで断続的に『図書』に寄せられた文章がまとめられている。書かれていることはおおむね、世間に対して、とくに言葉遣いに関しての小言である。「近頃、○○なんていうものがあるけれど、あれはいかがなものかねえ」的なぼやきの集積。丸谷才一じゃなかったら鬱陶しいダケの文章に違いないが、それを「筋は通っているよね」と読ませるのがこの文筆家のすごいところか。少なくとも、日曜の午前中にテレビ画面にあらわれて「喝!」と凄む体格のいい元野球選手のジジイとは違う(あれは老人性の癇癪が爆発しているだけだ)、知的な洗練をもった小言。読んでいて、喉の奥から小さな笑いがこみ上げてくる。こういう小言を「読ませる人」がいない世の中はちょっと寂しいね、とも思う。

小言ではない文章では「指導的な批評家」という文章が大変勉強になった。これは自著『日本文学史早わかり』の解題的な一本。日本文学を政治史とあわせた時代区分で整理する従来のやり方を無意味だ、と一蹴し、文学そのものによる区分を提案した一冊、らしい。「指導的な批評家」は、この本の一項目であって、ここで筆者は正岡子規を日本の近代文学の骨格を定めた批評家と位置づけている。その骨格とは「青春」なのだ、と。

2018年6月に聴いた新譜

  

ロスト・アンド・ファウンド

ロスト・アンド・ファウンド

 

6月も引き続き、耳が開いていた月、というか、この月、良いアルバムが出過ぎだったんじゃないか。まずはジョルジャ・スミス、UKネオ・ソウルの新たな女王様候補生筆頭、若干21歳の歌姫。先行して配信されていた曲も良かったけども、マクスウェルのファーストを彷彿とさせるような甘やかな音楽で素晴らしかった。ちょっと宇多田ヒカルみたいな(若いのに音楽の成熟度がすごすぎる、という点で)。こちらはアナログも購入した。2018年の重要作のひとつ。

(04:30) アイドラー

(04:30) アイドラー

 

 今月はジョルジャ・スミスとジェイミー・アイザックの月だったかも。こちらもかならず年末に振り返られるであろう一枚。この人の前作は聴いていないのだが、今回「えー、素晴らしくないですか」と。ソフトで少し影のあるR&B from UK。影具合はジェイムス・ブレイク的なものを感じさせるが、こっちはもうちょっと安心して聴ける感じ。ロバート・グラスパー界隈のジャズっぽさも含まれていて、おー、UKのR&B、すげー良いですね、と思った。

YOU, FOREVER [12 inch Analog]

YOU, FOREVER [12 inch Analog]

 

 ニューヨークのSSW、サム・エヴィアンのアルバムも良かったのだが、ジェイミー・アイザックの登場によって俺のなかで上書きされてしまった……(アナログは購入)。中性的なヴォーカルの宅録感溢れる人。エリオット・スミスYo La Tengo、そしてジョン・レノンの空気を感じた。嫌いになれないですね、こういう人は。

 そしてKIRINJI。コトリンゴ脱退後、最初のアルバム。前のアルバム、そして先行配信されていた曲にはまったくハマれず心配していたのだが快作で一安心(先行配信されていた曲もアルバムの流れで聴くと実に良い)。これも最新のR&Bのトレンドを組み込んだりしていて、派手な感じはしないのだが、落ち着いた意欲作、という感じがする。


KIRINJI『愛をあるだけ、すべて』アルバム・ダイジェスト映像

Villa Tereze

Villa Tereze

 
SOUVENIR [LP] (IMPORT) [12 inch Analog]

SOUVENIR [LP] (IMPORT) [12 inch Analog]

 

王舟 & BIOMAN、そしてVIDEOTAPEMUSICの2枚のアルバムは、似た雰囲気をもった作品だったと思う。窓を全開にして風を部屋に招き入れ、自分で淹れたアイスコーヒーでも飲みながら聴きたくなるような「無国籍のワールド・ミュージック」。こういう音楽をやりたいなー、と永遠に夢想し続けている気がする。 

Peter Pears: Balinese Ceremonial Music

Peter Pears: Balinese Ceremonial Music

 

 ワールド・ミュージック的なキーワードでは、トーマス・バートレットとニコ・マーリーのアルバムも良い感じであったなぁ。コリン・マクフィーという作曲家が採譜したガムランの楽曲と、このふたりによる楽曲がコンパイルされたコンセプト・アルバム。どちらのミュージシャンもこのアルバムで初めて聴いたのだが、ガムランが空間や時間を離れて聞こえてくるような素敵な作品である。  

Guinga Instrumental, Vol. 2

Guinga Instrumental, Vol. 2

 

それからギンガのインスト集も良かったなぁ……。 

Sacrifices

Sacrifices

 

 もしかしたらPrefuse 73の新譜も「無国籍のワールド・ミュージック」のように聴いていたかも。

SAFARI

SAFARI

 

 土岐麻子の新譜は前作の延長線にあった。車で聴いていて「ん〜、この人が歌う曲の『土岐麻子っぽさ』ってすごいよな」と改めて感心する。シティ・ポップ的なもの、J-Wave的な場所、に位置づけられるシンガーだと思うのだが、ここまで来ると、なにか孤高にも思える。ブレてない。

Call The Comet

Call The Comet

 

 ブレてないといえば、ジョニー・マーも全然変わんないね……。

COLLAGICALLY SPEAKING [2LP] [12 inch Analog]

COLLAGICALLY SPEAKING [2LP] [12 inch Analog]

 

 ロバート・グラスパー、テラス・マーティン、テイラー・マクファーリン他による「今ジャズのオールスター・バンド」。参加ミュージシャンがどういう人たちなのかは、Apple Musicのこちらのプレイリスト(4時間弱にもおよぶ長大なもの)でチェックすると「なるほど、こういうシーンがあるのね(こういう人たちなのね)」ということがつかめる。

 テラス・マーティン、テイラー・マクファーリンは大好きで、グラスパーはなぜか全然ハマれないわたしなのであるが、このアルバムもイマイチハマれず。でも、クリスチャン・スコットの名前をここで初めて覚えて「すげー良いね」と思ったりしたので、ある種の情報のハブとして使えるアルバムだったのか、とも思う。

HEAVEN & EARTH

HEAVEN & EARTH

 

 今ジャズ、といえば、こないだもミニアルバムを出したばっかりじゃねーか、というカマシ・ワシントンのセカンドがすごかった。ファーストもすごいヴォリュームだったけれど、セカンドも2時間半ぐらいある。アナログは4枚組である。ポピュラー・ミュージックのアルバムは、40分ぐらいのサイズ感がちょうど良いと思ってるので、この長さには正直うんざりしてしまうのだが、内容の濃さはすごい。カレーハンバーグ天ぷら定食(味噌汁の代わりにビーフシチュー付)みたいな。「こんなのジョン・コルトレーン / ファラオ・サンダースの焼き直しじゃないか」とも思ってしまうのだが、それだけじゃなくて、マイケル・ブレッカー的な極めて高度かつシャレオツな曲も収録されていて、なんなの……という感じだった。

ザ・ロスト・アルバム(通常盤)(SHM-CD仕様)

ザ・ロスト・アルバム(通常盤)(SHM-CD仕様)

 

 そしてジョン・コルトレーンの「新譜」まででてしまう、という2018年。すでに評価が定まった人の、蔵出し音源って往々にして「あってもなくても良いもの」っていう感じがしてしまうのだが、これもそういう音源。カタログに新たな音源が増えても、その人の株価にまったく影響を与えない。こんなのありがたがるの『スイングジャーナル』読んでたオッサンだけじゃないのか!? そういう層に新規参入者はいるのか……!?

Kenzasburg

Kenzasburg

 

 最近K-Popへの関心が薄れていたのだが、大きな衝撃を受けたのがAshrockという韓国インディーのネオ・ソウル・バンド。さすが首都がソウルってだけあるよね、と発声しただけで2億円の負債を抱えそうなダジャレを思いついてしまうのだが、凄まじいセンス、凄まじい上手さ、凄まじい曲の良さ。リオン・ブリッジス的なR&Bのレガシーを受け継いだ新人かと思ったが、これが今のK-Popのすごさですよね……と腰が抜けそうになる。Suchmosの15倍、こっちを推しモス。

Kanto EP - REPETITION

Kanto EP - REPETITION

 

 Ashrockから韓国のR&B、ヒップホップをいろいろと聴いてみたら、これがすごい鉱脈で。新しい音源ではラッパーのKantoのEPもすごく良かった。それからSamuel Seoも。


Samuel Seo (서사무엘) – Off You

99%ぐらいのリリックや歌詞の意味が言語の障壁によってわからないのだが、上手さだけが伝わってくる。

サクラ

サクラ

 

少し前のリリースであるが、前野健太の新譜もすげえ良かった。最近、タモリ倶楽部の ちょっとスケベな企画にでてくる怪しい風貌の人、という認識しかなく、その怪しげなキャラから「大人計画にこんな人いたのか?」という勘違いもしていたのだが、その音楽を聴いて、今現在において、こんな強い言葉で歌えるSSWがいたのか、と衝撃を受けた。ちょっと星野源的な、サブカル臭が気になって、最初、これを好きになっても良いんだろうか、と迷ったのだが、良い、俺はこれを好きで良いことにした。

歩行記念日、30代のプロフェッショナル

https://www.instagram.com/p/BkXUgIolPEQ/

生後11ヶ月を経過。脚力の発達が著しく、自分の背丈よりも高いところにあるものをつかまり立ちで取ろうとして、ものすごいつま先立ちになっている。まるで月面を歩く男のような姿勢、あるいは忍び足で歩くアニメーションのネコのよう。

今にも歩きだしそうだな、と思っていたら、さっき何気なしに一人で直立している(本当に、赤ん坊というか、人間のようにしっかりと立っている)息子の眼の前に、息子が大好きなテレビリモコンを見せて遊んでいると、息子が手を伸ばしながら、トッ、トッ、と2歩歩いて、立ち止まり、再び、デッ、デッ、と2歩歩いて尻もちをついた。「おお、歩いたゾ!」と歓喜

保育園ですでに歩いたという報告は受けていたのだが、親の前で、しっかりと歩いた日を記念日としておきたい。歩行記念日である。

ところで、息子が保育園に通いだした4月以降、まるでマンスリーのバッチ処理のようなペースで風邪を引いている。タチが悪いことに家族全員で体調を悪くしている。わたしは5月にひいた風邪がひどく、そこからぜんそくのような症状が出はじめていて、一週間以上お酒を飲めないでいたりもした。治りきらないうちに次の風邪を引くようで、なかなかしんどい。

しんどい、といえば、月曜日の朝もなかなかのものだ。土日、体力がついてきた息子の相手をしていると、本来であれば土日に英気を蓄えて、さあ、月曜日だ、一週間頑張るゾ、みたいな感じでいきたいマンデー・モーニングを腰痛・筋肉痛を伴ったブルー・マンデーとして迎えることになる。

いずれのしんどさも加齢を感じさせる。息子の体力についていけないのも、風邪の治りが悪いのも。

20代だったら多少の無理が効いたけれど、30代も半ばとなれば、もう無理できない、というか無理したあとのしんどさを回避したい、という気持ちが働く。無理しないで、常に同じパフォーマンスを維持できるように安定的な生活を送れるか、とか考えてしまう。これは一種のプロ意識、言うなれば「30代のプロフェッショナル意識」の芽生えであろう。

 それで休肝日をもっと増やしていこうと思って、ノンアルビールを飲んだりしている。幸いなことに「麦のくつろぎ」が普通に美味しくて、今日も無事ノンアルで一日を締めくくれそう。ベルギーの白ビールのような華やかな香りがとても好ましい。

村上春樹 『村上さんのところ』

 

村上さんのところ (新潮文庫)

村上さんのところ (新潮文庫)

 

 2015年に運営されていた村上春樹がファンから寄せられる質問メールに答えるサイトの書籍化。先日文庫本になっていたので、ちょうど軽いものが読みたい瞬間があったので手に取る。たしかリアルタイムでもサイトをほとんど追っていた気がする。毎回面白い回答がされているわけではなく、質問に質問で返すような、相手を脱臼させるような回答も多くあるのだが、おおむね面白く読んだ。とはいえ、大部分を流し読みしてしまっているのだが、それでもいくつかの質問と回答は記憶に残るものがある。

とくに鑑別所で村上春樹の著作に出会って、それからずっとファンである、という質問。これは村上春樹の作品へのファースト・アプローチのシチュエーションとしては、かなり珍しい部類なのではないか、と思う。その珍しさが、なにか物語的なエピソードとして成立しているような気さえする。端的に「そういう人生もあるんだ」という気づきがあって。

それから複数の質問者が「不倫を書いているのはいかがなものか」、「セックスについて書きすぎなのではないか」と質問の形をした主義主張をおこなっているのも印象に残る。なにが「いかがなもの」なのか。本が人に与える影響を多く見積もり過ぎな人間の存在を改めて確かめられるようである。じゃあ、ドストエフスキーを読んだら金持ちのおばあさんを殺す事件が増えるのか、とか思ってしまうんだが。

『DARK KNIGHT バットマン: ダークナイト』

DARK KNIGHT バットマン:ダークナイト(ケース付) (SHO-PRO BOOKS)

DARK KNIGHT バットマン:ダークナイト(ケース付) (SHO-PRO BOOKS)

 

 こないだようやくクリストファー・ノーランの『ダークナイト』三部作を全部観終えて(劇場では『ダークナイト』しか見てなかった)その流れでコミックの『ダークナイト』も読んでみた。

いったい何周遅れなんだ、という感じなのだが、これ、映画の原作じゃねーのかよ! と読みはじめて気がつく。『ダークナイト・リターンズ』と『ダークナイト・ストライクス・アゲイン』を収録。いずれも50代後半を超えたブルース・ウェインが頑張る話なのだが、まぁ「映画の原作も読んでみるか」と思って読んだ人は、なんじゃこりゃ、と思うであろう。一応、トゥー・フェイスもジョーカーもでてくるけれど。

「『ウォッチメン』にならぶグラフィック・ノベルのマスターピースのひとつ」ということだけれども、いきなりコレから入るのはキツそう。いろんなキャラクターが説明なしにでてくるし(注釈付きの冊子を適宜参照しないと全然わからない)、絵もガチャガチャしてるし、正直に言うと、あんまり好きじゃない。が、一方で、大変に現代的な話であるなぁ、と思う。その現代性は『ダークナイト』、『ダークナイト・ライジング』とも通ずる。

 とくに『ダークナイト・リターンズ』。ここでのバットマンは、ほとんどポピュリズム集合的無意識が肉体を持った姿として現実化した市民代表の「私刑執行人」のようである。バットマン自らの正義感ももちろんあるのだけれど、徹底してバットマンは市民と怒りを同化させながら、自分の行動を正当化し、モチベーションを保とうとする。ブルース・ウェインはそれでとっても気持ちよくなっているのである。

ブルース・ウェインって完全に変態じゃねえか、と思いつつ、義憤に駆られて私刑を加えようとするインターネット・ユーザーの姿とものすごく重なるよなぁ、と思うのだった。1986年に発表された作品なのだが、いまだったらバットマンTwitterエゴサしまくって叩くべき悪を見つけてるに違いない。「RTされた数だけ悪人をぶっ飛ばします」みたいなことつぶやいたりして。

バットマンの私刑執行人らしさは、公的な権力代表であり、要するにアメリカ政府の正義代表になっているスーパーマンとの抗争によってハッキリするのだが、あんまり詳しく書くとネタバレになるのでこのあたりで止めておこう。続編『ストライクス・アゲイン』は、登場人物がさらにややこしいのでキツかったのだが「悪」の存在は、『リターンズ』よりも明快。こちらもフェイクニュースとかポスト・トゥルース的なものとの戦いが描かれている。