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文化的消費活動の日記

井上智洋 『ヘリコプターマネー』

 

ヘリコプターマネー

ヘリコプターマネー

 

 これも山形浩生さんが紹介していた本。「誰もかれもが生き残りのために社畜として働かざるを得ず、そこから脱落した者はニートなどと呼ばれ肩身の狭い思いをしながら生きていかなくてはならない」、「若年男子の草食化の原因も半分くらいは長く続くデフレ不況が原因だろう」という本書冒頭の主語が大きい北斗の拳的社会描写、そしてに産経新聞の記者のレベル感の草食男子分析に、えー、なんかこれアレな本か? と不安になったが、大変良い本。

「失われた20年」の日本経済(平成デフレ不況)のメカニズムと、そこから脱却するために行われた政策(いわゆるアベノミクス)がなにを狙ったものなのか、そしてどのへんがマズかったのか、がわかりやすく解説されている(と同時に、現代の日本経済をモデルにしたマクロ経済学の教科書的な本でもある)。読んでいて、これまで聞きかじり、読みかじってきた経済学についての知識が整理される感じがして良かった。

で、書名の『ヘリコプターマネー』。一般的には「お金のバラマキ」とした批判的に理解される言葉だけれども、これが今のアベノミクスのうまく言っていない部分を乗り越える方法のひとつだ、と著者は言う。BI(ベーシック・インカム)だ、と。わたくし、これまでBIのことを「え、国民皆生活保護制度みたいなこと? そんな社会でだれが働くの?」とか思ってたんだけども、本書を読んだら、おお、そういうのもあるのか、アリかもね、と思ってしまった。

『ヘリコプターマネー』っていうシンプルなタイトルはすごい損しているような気がして。『ヘリコプターマネーが最強のマクロ経済政策である』ぐらいカマしても良かったんじゃないだろうか、と思う。「残念ながら今の日本には、マクロ経済学に基づかずに、自民党支持とか右派という理由でアベノミクスに肯定的だったり、民進党支持とか左派、リベラルという理由でアベノミクスに否定的だったりする人が多く見受けられる」。おっしゃる通り。安倍晋三が大嫌いだから、アベノミクスにも懐疑的だ、という人になるべく読んでいただきたい一冊。

コンパクトマクロ経済学 (コンパクト経済学ライブラリ)

コンパクトマクロ経済学 (コンパクト経済学ライブラリ)

 

 マクロ経済学の基礎の基礎についてはさすがにこのページ数では触れられていないので「経済学、かじったことなし」な方には、飯田泰之先生・中里透先生によるこちらの教科書を読んでおくことをオススメする。