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文化的消費活動の日記

岸政彦 『ビニール傘』

 

ビニール傘

ビニール傘

 

 社会学者、岸政彦の小説。岸政彦による社会学的な著作では『断片的なものの社会学』は、2015年に読んだ新刊本のベストにあげた。『街の人生』もとても良い本。本書に収録された2篇「ビニール傘」、「背中の月」はいずれも大阪を舞台にした小説で、とくに芥川賞の候補作にも選ばれた前者は『断片的な社会学』を想起させる、断片的な話が移ろうように流れ、集積することで、中心となる強い物語なしに、心を揺さぶるようなストーリーを形成しているところがとても良かった。大阪、わたしには馴染みのない街で、いくつかのおそらくは大阪では通じるであろう固有名詞がわからない。のだが、その舞台で、おそらくは現実に存在するであろう(あるかもしれない)生活が、日常的な言葉で迫ってくる。とても生々しい。読む前から、なにか、リアルな生活を想像させる作品なのではないか、レイモンド・カーヴァーみたいに、という予測があったのだけれども、良い意味で裏切られた。「ビニール傘」に一番近いのは、長さが全然違うのだが、ロベルト・ボラーニョなんじゃないのか、と思う。構造的に。あと単純に、わたしはこの人の文章のたたずまいが好きなんだな、と思った。