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文化的消費活動の日記

ウラジーミル・ソローキン 『ブロの道』

ブロの道: 氷三部作1 (氷三部作 1)

ブロの道: 氷三部作1 (氷三部作 1)

 

現代ロシアの鬼才、ソローキンの『氷三部作』より。刊行順に読んでいるので、時系列的には『ブロの道』がエピソード1、去年読んだ『氷』がエピソード2、ということになる。『氷』で「え、ソローキンってこんなにちゃんとしたストーリーテラーの才能があったのかよ!」と驚かされたのだが、本作はさらにその驚きが倍増させられるような感じ。王道的に一人称視点で語られつつも、主人公、ブロ(アレクサンドル・スネギリョフ)の変化とともに、その視点から観察される世界の描かれ方がどんどん変容していく様がかなり面白い。

物語は帝政末期のロシアからはじまるのだが(富裕層に生まれた主人公の少年時代の回想は、ナボコフばりに甘美でセンチメンタルだが)主人公が「人間ではないもの」として目覚めた時点で、物語る言葉が、肉機械・鉄機械といった人間のカルチャーから隔絶された人間による言葉に置換されていき、そうした独特な用語法によって20世紀前半の歴史が描かれるのは痛快。物語上にはおよそ50年ほどの時間が流れているのだが、始まりから終わりまでで「ずいぶん遠いところに連れてこられちゃったな……」という感想が浮かんでくる。

かなり読みやすい作品なので、ソローキンの「最初の一冊」としてもオススメ。