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文化的消費活動の日記

山本周五郎 『樅ノ木は残った』

 

樅ノ木は残った (上) (新潮文庫)

樅ノ木は残った (上) (新潮文庫)

 
樅ノ木は残った (中) (新潮文庫)

樅ノ木は残った (中) (新潮文庫)

 
樅ノ木は残った (下) (新潮文庫)

樅ノ木は残った (下) (新潮文庫)

 

高校受験のときに志賀直哉の『赤西蠣太』を読んでから、ずっと「伊達騒動」が気になっていて、いつかそれを題材にした山本周五郎の本も読みたいな、と思っていたのだが、時代小説ってまったく読んだことがなくて二の足を踏み続け、結局こんな歳になってしまった。初時代小説、初山本周五郎。大変に面白かった。

はじめ人物が初登場するたびに石高が記述されたりするその語り口に「ほう、時代小説ってこんな感じですか」と面食らったのだが、慣れると普通に読める。この「若干とっつきにくいけど、慣れると普通にテクストの世界に入っていける」感じは、海外小説と同質のようにも思われる。「国老」とか「堀普請」とか、馴染みがない言葉が頻出するいわば「異世界」のテクストなんだけれど、そこに書かれていることには共感をもって読める、というか。それは「サモワール」とか「コペイカ」とか馴染みのない言葉が出てくる海外小説でも同じことが言える。

幕府の脅威となりうる伊達藩を分割しよう、という陰謀から藩を守ろうとするお侍さんの物語なのだが、人間の描き方、というかキャラクターが良くて。まず、陰謀にめちゃくちゃ巻き込まれつつ奮闘する主人公の原田甲斐が、ホントはサムライ業なんかよりも山で鹿とか魚とか追っている方が好きで「めんどくさいのに巻き込まないでくれ……生まれてきたところ間違えた……」とか思っているところが良いよな、と。また、肉欲に溺れて堕落してしまう青年とかでてきて、普遍性あることを扱ってんだなー、と感心するのだった。山本周五郎、ちょっとハマりそうです。