「サクロ・モンテ(直訳するならば『聖なる山』)」とは聞きなれない言葉だが、それもそのはず、日本で本格的に紹介されるのはほとんどこの本が初めてで、起源をさかのぼると「聖地エルサレムに巡礼するのは大変だから、近場に疑似体験できるものを作ろうゼ」という意図で作られたキリスト教の宗教施設のことらしい。
中世ヨーロッパのキリスト教徒にとっては、エルサレム、ローマ、サンティアゴ・デ・コンポステラへの巡礼というのは、人生における超一大イベントで、10世紀にはちょっとしたブームのようなものになっていたようである。しかしながら、イスラーム勢力によってエルサレムにいくのが難しくなったり、修道会などが新たな宗教生活のありかたを広めたおかげで「そんなに頑張って巡礼しなくても良くね?」みたいな感じになっていた。
サクロ・モンテという施設はそうした時代に、発明された装置だった。エルサレムのイエス・キリストがらみの遺構が再現されたり、また、イエスの「十字架の道行き」の過程が疑似体験できるようなアミューズメントが設置されたりする。
わざわざ遠くに行かなくても近場のサクロ・モンテにいけば、エルサレムにいったのと同等の霊験あらたかな体験ができる、ということで、これは日本における分霊・分社を彷彿とさせるし、東武ワールドスクウェアか、ハウステンボスみたいだね、と思った。
そういう代替とか模造とかで間に合わせよう、というカルチャーは、日本に独特のものだと思っていたので、ヨーロッパにもそういうのがあったのは意外な歴史、と驚いた。
当然このニセモノ・カルチャーは「間に合わせ」の意味もあるだろうし、反作用的に「ホンモノの価値を高める」意味もあっただろう。ミラノにあるサクロ・モンテに作られた「キリストの墓」には、木彫のキリストの像が置かれている。そのちょっといかがわしい感じ & ニセモノ感は秘宝館っぽささえある。