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文化的消費活動の日記

細馬宏通 『うたのしくみ』

 

うたのしくみ

うたのしくみ

 

長らく読みそびれていた細馬宏通による音楽評論の本を読む。楽譜や専門用語をほとんど使わずに、ポピュラー・ミュージックの楽曲を分析したWeb連載と、CDのライナーノーツや単発の評論が収録されている。ジョアン・ジルベルトの「サンバがサンバであるからには」の回はリアルタイムで読んだと思う。先日、この記事(↓)を読んで思い出して買い求めた。

note.mu

本書における楽曲分析は、音楽理論の方向からでなく、音楽における歌(歌詞とメロディ)そして伴奏によって身体がどうなってしまうのか、どうしてこの音楽は気持ちいいのか、という身体感覚の分析からアプローチされている。同時に社会的な文脈も振り返られるのだが、そこで蘇るのも歴史のうえでの、過去のリスナーの身振り、手振り、リアクションなのであって、身体の歴史の本とでも言えるのかも知れない。語られる音楽だけでなく、本書における日本語の音声学的記述を読むときに、読者の身体にもまたインパクトがある。日本語という自明すぎるもの・身近すぎるものを改めて観察する楽しさ、声を出さずに、声帯や唇や舌の動きを確かめたときの、その驚き。