ラテンアメリカ文学入門 - ボルヘス、ガルシア・マルケスから新世代の旗手まで (中公新書)
- 作者: 寺尾隆吉
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2016/10/19
- メディア: 新書
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昨年末に山形浩生さんが紹介していた本。気になって読んでみたのだが、たしかにこれは良書。ラテンアメリカ文学を読んだことない方、『百年の孤独』は読んですげえ好きだけど、そのほかは読んでない方、あるいは結構読んでる方、さまざまにオススメできる。ラテンアメリカで小説が書かれるようになるまでの言うなれば文学の原始時代的なところから、それぞれの国の文化や社会情勢、そして出版社や編集者(あるいは読者層)といった文学が生まれるためのインフラ的な部分まで紹介していて大変勉強になりました。
著者の作家に対する評価もある特定の人に目一杯肩入れするのではなくて、有名な作家(たとえばガルシア=マルケスだったり、ロベルト・ボラーニョだったり)でも「コレは良い本だけど、アレはイマイチ」、「良い本だけど、この部分はちょっと……」とすごくフラットな評価をおこなっている。
政治がらみの部分だと、バルガス=ジョサがなんかの賞をもらったときにカルペンティエールがキューバ政府から要請をうけて「賞金と同じ額の金渡すから、ベネズエラのゲリラ・グループに賞金を寄付してくれまいか」と交渉しにいった、とか結構スゴい話が載っている。「マジックリアリズム」の創始者でもあるカルペンティエールは本書では、毀誉褒貶ありつつも重要な立ち回りをしていて、読んでちょっとイメージが変わった。いや、見た目がジャバ・ザ・ハット的なオッサンなんだけれども、見た目通り、ダーティな人だったんだな、と。
70年代のラテンアメリカ文学ブームの作家だと、面白いことが書かれているのは、カルロス・フエンテス。フエンテスが『澄みわたる大地』でデビューして脚光を浴びたあと(この人はめちゃくちゃダンディな見た目なんだけど)、女優と結婚したり、オシャレに気を使ったりして、イケイケな感じだった、とか、フランス語と英語が得意だったから、フエンテスがラテンアメリカの作家をあちこちに売り込みに行ってた、とか書いてある。あと、ホセ・ドノソも良いキャラに描かれる(人が売れるのが悔しくて、神経症みたいになってた、とか)。
読む人によっては、ちょっとラテンアメリカの作家たちに幻滅しちゃうかもしれない。「文学入門」なら、門戸を広げる意味では、良いことしか言わない、とりあえず褒めておこう、というアティテュードもアリだとは思うんだけど、そういう営業的な嘘をやってない。真面目な本です。