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文化的消費活動の日記

伊丹十三 『小説より奇なり』

小説より奇なり (文春文庫)

小説より奇なり (文春文庫)

 

これも復刊してない伊丹十三の著作。著者がひたすら他人から話を聞いた結果を編集して一冊の本にしている。井伏鱒二星新一岡本太郎といった今となってはレジェンド級の作家に「あなたの抜け毛はどうですか?(抜けてますか? どう思ってますか?)」と聞いて回ったり、また「猫派ですか、犬はですか」などと聞いてまわったりする。それが昔の新聞のような文字組で構成される。この部分はすごい悪くふざけ感が満載。そのほかは、当時の著名人・文化人に食に関するインタヴューだとか、無名の人間が体験した異常としか言えない体験談など。

食に関するインタヴューは、新入幕から2年目の輪島だとか、ミケランジェリの弟子だった日本人ピアニスト高野耀子だとか、三遊亭円生だとか、藤原歌劇団の創立者藤原義江だとか、すごい人選。また、これが聞き手がいれていく合いの手や相槌のセンス、そして聞き出した言葉を文字に落とし込むセンスが抜群で。インタヴュイーの人となりをしらなくとも、文字から音声が蘇ってくるよう。無名の人間の体験談は、単純にすごい話が載っていて凄まじい……。まとまった内容に欠けるし、すごい奇書めいたものに思えてくるのだが、伊丹十三の編集センスが爆発した一冊。