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文化的消費活動の日記

湯木貞一 『吉兆味ばなし 3』

吉兆味ばなし〈3〉

吉兆味ばなし〈3〉

 

日本料亭「吉兆」の創始者湯木貞一の語りを集めた本の3巻。本の内容については、2巻を取り上げた時にも書いたけれど「季節ごとの食材について語り手があれこれ語る、その繰り返しで、春になれば筍だし、秋になれば松茸、と語ってることが循環していく」感じである。これが大変に気持ち良いし、(日本食・和食ではなく)「日本料理」が茶事・茶道の流れから形成されたことが腹に落ちるように思った。語り手の美意識が、民藝的、というか。これまた吉兆の系譜にいる土井善晴の「家庭料理は民藝」という言葉を想起させる感想であるが。

煮しめは翌日になって煮きなおしても、鮮度がまったくちがうものになって、きのうの面影もない、などということはありません。今日煮いた味は今日の味。それをいちど、冷蔵庫なりなんなりに眠らせて、また煮きなおしたら、それはそれで、また生きた味になるものです。

こういう言葉もいいなぁ、と。

本書では語り手が巡り合ったビッグイベント(表千家の法事で3日間で6000個の弁当を作った、とか)についても語られている。とくにマーガレット・サッチャーやダイアナ妃にどんな料理をだすか頭を悩ませた話が面白い。今日では欧米でも寿司や刺身が人気だ、と言われているが、ここには(語りがおこなわれた当時の)30年前に海外で日本料理がどのように受容されていたのか(というか、受容されていなかったのか)が明らかになっている。

https://www.instagram.com/p/BTNpUYPB3DS/

20年以上前に挟まれたはずのハガキに書かれた言葉にもちょっと心が揺れてしまった。いい本の作りだな、と。

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