
- 作者: ウラジーミルソローキン,Vladimir Sorokin,松下隆志
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2016/07/27
- メディア: 単行本
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「氷3部作」の完結編。『氷』、『ブロの道』で語られたすべての秘密の顛末がここで語られる。金髪碧眼の人間のなかに紛れ込んでいる「光の兄弟たち」、宇宙から飛来した氷で作られたハンマーで心臓を殴打されると彼らは目覚める。23000人の光の兄弟たちがついに目覚め終え、結集すると……どうやら地球が破滅するらしい、というストーリーはエヴァンゲリオンの人類補完計画を彷彿とさせるのだが、本作では、暗躍する光の兄弟団の物語と、彼らに誤って拉致され心臓を殴打された被害者たちが、兄弟団の謎を解き明かすために立ち上がる、という二つの物語が対位法的に進行する。
兄弟団と被害者たちの対峙は、『MMR』的な陰謀論との対峙であって、それは「9.11」以降、という感じがするけれども、全体的には「グローバリズムの世界の話だな」という印象がとても強い。兄弟たちを目覚めさせる氷のハンマーは、フィンランドにある工場で中国人労働者たちの手によって製造され、また、ハンマーの部品は中国の工場で製造されている。光の兄弟団たちの触手がいたるところに、権力だけでなく、経済的にも伸びているのがかなり緻密に書き込まれている(北半球しかでてこないのは意図的なのか……?)のが面白かった。
最後まで「これはどっちに転ぶんだ……?」と予測がつかないエンターテイメント・スリラー。クリストファー・ノーランあたりが監督しているハリウッド映画みたい。日本も舞台になっていて「仕事の前にはナンパしたコギャルの耳に射精するのをルーティーンとしている殺し屋」というキャラクターもでてくる。このあたりはスティーヴ・エリクソンも彷彿とさせるんだけれども、エリクソンみたいなややこしさがソローキンにはない。