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文化的消費活動の日記

五十嵐太郎 + リノベーション・スタディーズ(編) 『リノベーション・スタディーズ: 第三の方法』

 

リノベーション・スタディーズ―第三の方法 (10+1 Series)

リノベーション・スタディーズ―第三の方法 (10+1 Series)

 

建築史家、五十嵐太郎が編者のひとりになって作った「リノベーション(リノベ)」に関する本。毎回、建築家や美術家をゲストに呼んだレクチャーがもとになっている。

「リノベ」という言葉もすっかり人口に膾炙した感があり、かくいう私も築30年以上経過した集合住宅をスケルトン・リノベして住んでいる人であるのだが(リノベ、という言葉がなんとなく恥ずかしくて、自分で説明するときは「リフォーム」と言っているが)、本書によれば、リノベーションは90年代の後半から注目を浴びていた、らしい。個人的な感覚では「リノベ = ここ数年の流行り」と思っていたので、意外だった。

刊行から15年経っても「リノベ」って良い感じにホットなキーワードなわけだから、つまり、ここ20年ぐらいリノベは注目され続けている、ということになる。その理由は、消費者が「注文住宅を買う余裕はないけれど、リノベなら予算内で好きな家を作れる」という、ある種のデフレ的節約思考だけに基づくものではない。

「首都圏では新築マンションがバカスカ建てられている一方で、中古マンションが余ってる」だとか「空き家問題」だとか「空きビル問題」だとか、住宅のみならず、日本の不動産業界で「ストックをどうするんだ」という問題を抱えている。このストックが社会問題化しているんだから、リノベーションによってストックをいかに活用するかに注目が集まるのも必然というわけである。状況の深刻化によって、この本の「読みどき」感も完熟に達した、とさえ言えよう。大変面白かった。

なかでも中谷礼仁(あ、この人、タモリ倶楽部に出ている人じゃないか!)が講師となった回は興味深く読んだ。リノベーションの事例に携わるプロセスにおいて、歴史的な建築技法・概念を掘り起こす、考古学的なアプローチがここでは語られている。その歴史・アーカイヴにどのように関与していくか、という話で、中谷はこのように語る。長くなるが引用する。

まず1、3、5、7、これを積層する歴史の状態とします。そこに、突然23というわけのわからない数が入ってきた。これが近代といえば近代で、1、3、5、7と続いてきたものが23と突然変わってしまうわけですが、これをどのようにしたら調和させられるかという問題です。この場合1、3、5、7、23の後に僕が25を書けばいい。そうすると突然27、29が想像的に増やされるわけですね。ならばとこれは初めから1、3、5、7の次は23に飛んでまた四つの奇数で数えてまたその次はさらに幾つ足してというような数列になっていたのだというかたちで過去のルールすらも捏造される。

 「これを考えれば、いかなるノイズがきても必ず自分たちの新しい創作活動が歴史的なものまでを含めた調和的な条件を獲得できるという確信にもなる」。この歴史に対する考え方に、すごいビリビリと刺激を受けた。