文学史において、ヘミングウェイほどアイコニックなアイテムが広く知られている作家もいないだろう。たとえば、フローズン・ダイキリ、ボーダーのバスクシャツ(これはピカソも愛用した)、ロレックスのバブルバック。そのファッションは実用性を重視したもので、無骨、時には粗野とも思える服装は、いわゆる「ヘビー・デューティー」の先駆である……というイメージを残された写真や遺品、買い物の領収書(ヘミングウェイは「捨てられない人」だったらしく領収書だのメモだのなんでもとっておいていたらしい)から調査して突き崩そうという大変おもしろい本。
実はヘミングウェイ、若い頃はめちゃくちゃ尖ったオシャレびとであり、服装や持ち物にはとことんこだわりを持っていた。そこには鎧のようなマッチョイズムを終生身にまとい続けようとした作家のイメージが覆るような意外性がある。ヘミングウェイのセンスを紐解くだけでなく、彼が生きた時代のファッション・カルチャーについても学べるのが良いところ。
ヘミングウェイについてはずいぶん前に熱心に読んでいたけれど、そのバイオグラフィーについてはよく知らなかった。本書によれば、要するに「良いとこのボンボン」なんだよね。それがマッチョな方向に行く、というのはマイルス・デイヴィスのメンタリティにも近い気がするし、また、彼のアイコン性は伊丹十三とも重なるようにも思う。
妙な言い方だが、ひとつひとつの「遊び」もまた真剣だった。その真剣さが、時には悪戯に似た子供っぽさにも見えることがある。いやそもそも「遊び」に興じるのはどこかで、永遠の少年や少女の心を持ち続けることなのだろう。自らの体験を冷徹かつ即物的に描き、即物的なものの描き方に対する固執は、単に実体験にとどまらず、〈モノ〉に対する関心に通じる。〈モノ〉は単なる物にとどまらず、そこに真性さを求めていたように思われる。
本書131ページより。こうした性格・遊びへの取り組みも、死後語られる伊丹十三の姿と通ずる。
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などと考えたのは、先月松山まで行って伊丹十三記念館を見てきたタイミングだからだったりもするのだけれど。
文庫化もされているが、単行本で読むのをおすすめする(写真がとても重要な本なので)。