sekibang 3.0

文化的消費活動の日記

横山剣 『僕の好きな車』

 

僕の好きな車 (立東舎)

僕の好きな車 (立東舎)

 

「東洋一のサウンドマシーン」、クレイジーケンバンドのフロントマン、横山剣がタイトルどおり好きな車について語りまくるコラムを一冊にまとめたもの。一言で言うと大名著。最高です。71本のコラムが収録されており、毎回ひとつの車種をメインに語っている。タイトルに取られていないけれど、言及されている車種も含めれば100台ぐらい登場するんじゃないだろうか。

著者が子供のころにシビれた車の記憶から、印象に残る現行車種まで幅広く取り上げられているのだが、とにかく記憶のディテールがスゴい。これはまるで「車版の『失われた時を求めて』」のよう。「マツダの車にはセ・リーグに対するパ・リーグのような自由度を感じる」など金言も満載だ。

読んでいて、自分もそういえば小さい頃、車が好きだったよなぁ、と記憶が蘇った。そう、なんと言ってもわたくし、元自動車整備工の息子であり(父は義理のお兄さんが経営している整備工場に勤務していた)、中学1年ぐらいまで「自分も自動車整備工になるのかなぁ」とぼんやり思っているぐらい車が身近な存在だったのだ。ミニカーも大好きだった。

いつの間にか車と縁が遠くなっていたけれど、子供が生まれてミニカーを買ったり、ちょうど1年ぐらい前に車を買ったりしているうちに、遠くなっていた車との距離が近くなっているところに本書である。

本書にも名前が頻出するけれどイタリアの名デザイナー、ジョルジェット・ジウジアーロが手がけた車のカッコ良さとかを再確認したりして「あ、俺、まだ車好きなんだな」って。次に車を買い換えるなら……などと今から考えてしまっています。たぶん、その頃には40歳過ぎていて「おじさんのビギナー」から「おじさんの中堅」ポジションに移行しているぐらいだと思うので、おじさん臭いセダンに乗りたいな……とかね。

著者が聴いている音楽の話も「この車で聴きたい音楽」という形ででてくるのだが、その幅の広さも意外で面白かった。ceroとか最近のバンドの名前が出てくる(一番意外だったのはパスピエ)。そういう語りも「車の愉しみ」を伝えるもので良い。東京都周辺に暮らしていると、車は贅沢品、車なんか不要、という考えに支配されてしまうし、それは「ごもっとも」なんだけれども、単なる移動手段を超えたカルチャーとしての車の魅力を再確認させてくれる。