sekibang 3.0

文化的消費活動の日記

カルロス・フエンテス 『アルテミオ・クルスの死』

アルテミオ・クルスの死 (岩波文庫 赤 794-2)

(なんかいつもの商品リンクが貼れない)

メキシコの作家、カルロス・フエンテスの『アルテミオ・クルスの死』がまさかの岩波文庫入りで喜び勇んで買い求めた。いや〜、10年越しぐらいでやっと読めた。なんかガルシア=マルケスの『族長の秋』かなんかに本作の登場人物への言及があり、ずーっと読みたくても絶版だから読めない、という作品だった。待っているあいだにフエンテスが亡くなったり、ほかの作品の翻訳が進んだりしていて、ぶっちゃけ情熱は冷めていたとも言えなくもないのだが。

しかしながら、本作をフエンテスの代表作と位置づけるむきに賛同するにやぶさかではない……。メキシコ革命をタフに生き抜き、財を成し、メキシコの政治にまで影響力を持つようになった男、アルテミオ・クルスが、死ぬ前にあれこれみる走馬灯的な作品である。もうそれだけ。いろいろややこしい手法を使っていて、アルテミオ・クルスの生にメキシコの国の歴史、国への批評が投射されているのだが、例によって、ラテンアメリカ文学の典型をなぞるように屈強で貪欲でエネルギッシュな男の一代記として読んでしまって良いのだと思う。

そう、これがフエンテスの本質なのであって、いろいろめんどくさいことをやらずにメキシコ革命をベースに池波正太郎とか司馬遼太郎とか山本周五郎みたいな小説を書きまくっていたほうが良かったのではないか、と思わなくもない。『おいぼれグリンゴ』みたいなややこしくないやつ。