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文化的消費活動の日記

蓮實重彦 『凡庸さについてお話させていただきます』

 

凡庸さについてお話させていただきます

凡庸さについてお話させていただきます

 

著者による30年以上前の社会時評や講演についてまとめた本。蓮實重彦にも社会についてあの口調で饒舌に語るモードがあったとは、と熱心なフォロワーでもなんでもなかった自分などは驚いてしまうし、たしかに古い本だが内容は熟成されていま「読みごろ」になっている。『スポーツ批評宣言あるいは運動の擁護』にも通ずる「まだまだ果実味が残ってる」感じ。過去と現代と比較して楽しめるものもあれば、そのまま現代に通ずる指摘もあり、なかでも「情報化社会ではなぜ食事から快楽が失われたのだろうか」という一品は、その最もたるモノ。

ここで筆者は情報化社会によって、逸脱する楽しみが抑圧されている、と指摘する。「情報化社会とやらの退屈さは啓蒙が教育を抑圧し、快楽を忘れさせてしまうことに存する」(P. 105)。パリのレストランアメリカ人の同伴者がコーヒーを飲みながらビーフステーキを「楽しむ」がごとき享楽が、フランス的な流儀からありえないものとして否定され抑圧される。この傾向は現代においてより加速し、人々を自閉症へと誘うようだ。