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文化的消費活動の日記

トマ・ピケティ 『21世紀の資本』

 

 もう邦訳がでてから6年以上が経ってしまって「なんでこの本、流行ったんだっけ……?」って疑問が浮かんでしまうが、ちゃんと面白い! 経済学の基礎知識を備えていれば全然難しい話はでてこないから、体力と根気さえあればまるごと理解できる本だろう。問題は、めっちゃ長い、ってこと。

  • 長いスパンで見たら「r(資本、すなわち不動産とか株とか得られる収益率)>g(経済成長率)」っていうのが常態化してて、これで格差がどんどん広がってるっぽいよ
  • 経済成長ってのは1%ぐらいしか年間伸びないのが普通で、第二次世界大戦後から1970年代までが異常に伸びてただけ
  • 世界規模での戦争以外で格差は縮まってないよ(戦争によるインフレが金持ちの資産をギュッと圧縮しちゃうので格差が縮小する)

……とかの話をベースに細かいデータを見ていってるので、必然的に記述が長くなってしまう(格差をどう是正していくか、については金持ちにどうやってもっと税金を払わすかのか、って話に終止する)。ただ、その長さが本書の面白さでもあるので、たぶん要約本で本書のエッセンスだけ読んでも「なんだ、つまんなそうな本だな」ってなってしまうだろう。バルザックやオースティンの19世紀における資本が、今日における資本とどう違うのかとかは、文学方面でも受けそうだし、20世紀の仏米における格差の変遷の分析も面白い。参照してるデータもいちいち面白いから脱線しがいがある。

 たとえば、P. 336に乗っている「ヨーロッパと米国におけるトップ十分位の所得シェア」の図(9-7)では、スウェーデンのトップ10%の所得シェアが1960年から1980年までに急激に落ち込んだあとで、2010年までに急成長している(グラフの動き方としてはフランスと似ているが変動はより激しい)。こういうところからスウェーデンの経済ってどんな感じになってるんだっけ? という疑問が浮かび、ググッて↑のような資料にあたったりして。ピケティも「スウェーデンは、しばしば私たちが思っているような構造的な平等な国ではない」と言っているのだが、この資料は、北欧 = 幸福度が高くて良い国!っていう漠然としたイメージを打ち砕いてくれるモノ。

左派が経済政策について訴える際にスティグリッツの『プログレッシブ・キャピタリズム』とあわせて参照されるべき本だと思う。いずれも「いかに今の金持ちがいかに税金を払わず、しかも自分の資産を増やすのに有利な状況にあるのか」を分析した本であり、スティグリッツの本がより最近の米国の状況にクローズアップしたものだとすれば、ピケティの本は資本主義を産業革命前夜から今日までのスパンでスーパーロングショットで捉えたような分析になっている。

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