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文化的消費活動の日記

W. G. ゼーバルト 『移民たち: 四つの長い物語』

 

 2021年に読むゼーバルトの2冊目。ここ数年はかなり小説を読む機会が減っていて、それはなぜかといえば、フィクションの世界に浸るような余裕、というか隙間がどんどん少なくなっているからだと思っている、そんななかで2冊も同じ年に同じ作家を読んでいるのは極めて異例。なんか、ハマッてるんだと思う。そのわりには、彼の生涯に関するプロフィールはまったく知らなくて、この本を読んでいる途中に「へ〜、57歳で亡くなっているんだぁ」とか結構驚いた。本書は散文作品としては2作目に発表されたもの(1992年)。52歳のときだ。なるほど(それが思いがけないものだったとはいえ)晩年に作品を発表していた人なんだなぁ。作家としてこういうような世間への出方もあるのか、とも感心する。

4本の様々な長さの短編はいずれも著者本人が投影されているらしい語り手と人生のなんらかで巡り合った「移民たち」の生涯を追うもの。随筆ともフィクションともつかぬ書きぶりで、史実と虚構を織り交ぜながら進んでいくところは『土星の環』と同様。出どころがよくわからない写真(日本の金閣寺も紛れ込んでいる)への手の混んだ嘘キャプション的な文章としても読めるし、なにを読まされているんだ……と途方にくれる箇所もある。だが、それが良い。個人的な理想形に近い文章。

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