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文化的消費活動の日記

佐木隆三 『身分帳』

 西川美和の最新作『すばらしき世界』の原作。長らく絶版だったらしいのだが、映画化を期に復刊、西川自身も「復刊にあたって」という文章を寄せている。映画と原作の関係に触れた内容となっている。しかし、あの映画化はすごかったのだな、と改めて感心もする。原作の舞台は昭和末期、映画はそれを現代に置き換えている。ある種のリメイク的な映画化であるのだが、それ以上に、西川による原作の編集、これが上手い。原作の印象的なシーン、泣かせにくるようなシーンをときに文脈を変えながら映像に落とし込んでいたことがわかる。

原作には二度、長い移動のシーンがある。冒頭、旭川刑務所から東京に向かうシーンと、主人公がかつて暴力団組員だった頃の兄弟分のもとを訪ねて小倉に向かうシーンだ。冒頭の移動では、13年間の刑期を終えて浦島太郎状態になっている主人公が、徐々に変化した社会に接触していく、馴染もうとしていく様子が描かれていく。未来に向けての移動。それに対して小倉に向かう箇所では、いわば逆方向の時間の流れが描かれる。そこでは主人公の過去が長々と回想され、時代の変化が振り返られていく。この移動と時間の流れの結びつきがとても印象に残る。

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 『すばらしき世界』の感想はこの日記で書いた。