sekibang 3.0

文化的消費活動の日記

ロラン・バルト 『恋愛のディスクール・断章』

 

石川美子の新書『ロラン・バルト』(良い本です)によれば、本書は1975年から1977年にかけてバルトが開いた恋愛に関するセミナーでの講義がもとになったもの。出版は1977年。バルトは1980年に事故で亡くなっているので晩年の著作に分類される。仏語のアルファベット順に並んだフィギュールごとにディスクールがまとめられている*1とてもロラン・バルトらしい本で、とりとめもない感じというか、全体感を欠いた内容だが、発表当初から大きな評判を呼んだらしい。そのまとまっていなさが「いまの気分」で良い。

本書で語られている「わたし」は、あくまで抽象的な語り手としての「一般的わたし」 であるはずなのだが、ときにバルト自身が入り込んでいるときがある(とくに母親との関係性や記憶に関する箇所で)。というか、この「わたし」がバルト自身の個人的な話なのか、「一般的わたし」なのかの区分は極めて曖昧に読めてくる。それもまた良い。なんだかよくわからない本でありながら共感を呼び起こす箇所が多く含まれているのも、そういう仕掛けが効いているのかもしれない。

sekibang.hatenadiary.com

 

 

*1:ディスクールは、本書ではまとまりに書いた断片的な文章みたいなイメージ。フィギュールはディスクールをさらに細分化した言説の破片、みたいな説明をされているが、ようするにテーマだ