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文化的消費活動の日記

土井善晴 『一汁一菜でよいと至るまで』

料理研究家土井善晴先生の新刊。書名から推察されてるとおり、著者の自伝的な内容も含まれていて、土井勝の息子として生まれ育ち、国内外での修業を経て『一汁一菜でよいという提案』でさらに大きなブレイクに至るまでを振り返るような内容。フランスや、帰国後の味吉兆での修行時代を綴った部分は、本書にも名前が出てくる斉須政雄の本も思い起こさせる。もっとも文体の柔らかさが著者のテレビでのあのトーンなので『調理場という戦場』とはまったく違うのだけれども。

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だから「土井先生のことがもっと知りたいの!」という純粋なファンの方向けの本でもあるのだが(かなり恵まれた少年時代だったんだなぁ……と思う。著者は私の父母と同年代だが、私の父母とはまったく見てきた景色や経験が違いそうだ)、日本の料理文化の歴史(時折、これはフランスの料理文化と対比されもする)であるとか、あるいは著者の料理に関する思想の原点に触れられているところも読みどころだ。

歴史的な記述でいえば、ポール・ボキューズ辻静雄(辻調グループの創設者)の案内で湯木貞一の吉兆を訪れて、懐石料理を味わった、みたいな話は刺激的に読んだ。著者はそこから懐石料理がヌーヴェル・キュイジーヌに影響を与えたのではないか……? という想像を膨らませているのだが、そうだとするならば、辻静雄がすごすぎである。日本にフランス料理をもってきた第一人者でありながら、フランス料理にも影響を与えるきっかけを作っているわけだから。

また、湯木貞一に関してもかなりページを割いている。この人は料理人として初めて文化功労賞に選ばれ、著作もいろいろある。そのなかには家庭料理と料理屋の料理は別物、とか著者が言っていることとまったく同じ内容が書かれていたりするのだけれど、本書での湯木の扱いを読むと、その思想をどう著者が継承しているのかがわかるようにも思う。

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