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文化的消費活動の日記

片岡一竹 『疾風怒濤精神分析入門: ジャック・ラカン的生き方のススメ』

本書の存在は長らく認識してたものの、書名の「疾風怒濤」、「ジャック・ラカン的生き方のススメ」ってなんだよ、と引っかかってスルーしていたのだった(表紙の漫画絵も苦手な感じだった)。それで『現代思想入門』ラカンに関する箇所で言及されていてようやく手にとったのだけれども、驚くべき書物であって、千葉雅也先生ありがとうございます、みたいなことになる。著者は刊行当時20代前半でまだ修士であり、その若さでよくここまで明晰な説明ができたな……という衝撃もすごい。新時代のラカン入門、すなわち『シン・ラカン入門』とでも呼び直したいぐらいだ。

平易な語り口で、しかも無駄がなく、ラカンの理論の基本とよく出てくるキーワードを解説してくれている。それなりに時間をかけてラカンに取り組んできているわたしだが、本書を通してようやくシェーマLの意味するところが腹落ちした。間違いなく本邦で一番やさしいラカン入門書だ(精神分析の臨床の場でいったいなにが行われているのかに触れているのも良い。これまた驚くべきことだと思うのだが、多くのラカン入門書を読んでも、ラカンの本人の著作でも精神分析でなにをやっているかはよくわからないままなんだよ!)ろうけれども、本書の記述が次々に腹落ちしていったのは、自分がこれまでさまざまな迂回や誤解を含む生産性の良くない読書経験があったからこそかも、とも思うのだった。なので、最初の一冊としてオススメかはわからない。『現代思想入門』でも言われているように、ラカンはとにかく色んな入門書を読んだほうが良い、って思う。

本書は鏡像段階エディプス・コンプレックスについての書きぶりがとくに丁寧に思われ、幼児の父親であり、日頃まさしくエディプス・コンプレックス的な現象を目の当たりにしている私的な状況から身につまされることも多々あった。