現象学・フランス哲学を専門とする研究者が、自閉症に関するフィールドワークをもとにフッサールの現象学を(ときに批判的に)用いながら、自閉症児が生きる認識の世界を描こうとしたもの。著者はその後、この仕事について雑誌(「精神看護」2020年1月号)に収録されている座談会の記録のなかで「自閉症児に対するラベリングになってしまっていた」と反省の念を示しているのだが、定型発達者/観察者からのラベリングであったとしても興味深い記述に溢れた仕事。読み手の多くが定型発達者であることが予想されるけれど、本書で論じられた異なる認識の世界から自らが認識する世界について考えさせられることも多かろう、とも思う。