デリダ自身の著作を読むのはなにげにこの『ポジシオン』が初めて。60年代末から70年代初頭におこなわれたデリダの3つの対談録が収められている。2023年にでたこの「新・新装版」の帯には「デリダ自身によるデリダ入門の決定版」みたいなことが書かれているのだが、さすがにそれは誇大広告的で、この帯文を信じて本書からデリダの門をくぐろうとしてもなにもわかるまい……と思うが、ある程度、他の本でデリダがなにを言っているのかを把握して臨むのならば、まぁまぁ読める(読めた)……と言っても、本書で読むことのできるデリダ像とは、脱構築や差延、散種といった代表的な概念を、まるで一口サイズのアンティパストのようなものに過ぎないのだろうな……。一致しないこと、ひとつに収斂されていかないこと、ずっとズレていくことに拘ってるおじさん、って感じである。
『ポジシオン』の前になにを読めば良いのか。今ならこの2冊かな。『現代思想入門』はホントにホントの入門部分。『創造と狂気の歴史』は散種について詳しい。この本ではラカンに対するデリダの批判的な態度についても言及されているが、個人的な『ポジシオン』の読みどころとしてもラカンの有名な「クッションの綴じ目 le point de capiton」を当てこすり、散種をそのクッションのホックを破裂させるものと位置づけている箇所は面白かった。