6月も引き続き、耳が開いていた月、というか、この月、良いアルバムが出過ぎだったんじゃないか。まずはジョルジャ・スミス、UKネオ・ソウルの新たな女王様候補生筆頭、若干21歳の歌姫。先行して配信されていた曲も良かったけども、マクスウェルのファーストを彷彿とさせるような甘やかな音楽で素晴らしかった。ちょっと宇多田ヒカルみたいな(若いのに音楽の成熟度がすごすぎる、という点で)。こちらはアナログも購入した。2018年の重要作のひとつ。
今月はジョルジャ・スミスとジェイミー・アイザックの月だったかも。こちらもかならず年末に振り返られるであろう一枚。この人の前作は聴いていないのだが、今回「えー、素晴らしくないですか」と。ソフトで少し影のあるR&B from UK。影具合はジェイムス・ブレイク的なものを感じさせるが、こっちはもうちょっと安心して聴ける感じ。ロバート・グラスパー界隈のジャズっぽさも含まれていて、おー、UKのR&B、すげー良いですね、と思った。
ニューヨークのSSW、サム・エヴィアンのアルバムも良かったのだが、ジェイミー・アイザックの登場によって俺のなかで上書きされてしまった……(アナログは購入)。中性的なヴォーカルの宅録感溢れる人。エリオット・スミスや Yo La Tengo、そしてジョン・レノンの空気を感じた。嫌いになれないですね、こういう人は。
【早期購入特典あり】愛をあるだけ、すべて(初回限定盤)(DVD付)【特典:缶バッジ(アルバムVer.)】
- アーティスト: KIRINJI
- 出版社/メーカー: Universal Music =music=
- 発売日: 2018/06/13
- メディア: CD
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そしてKIRINJI。コトリンゴ脱退後、最初のアルバム。前のアルバム、そして先行配信されていた曲にはまったくハマれず心配していたのだが快作で一安心(先行配信されていた曲もアルバムの流れで聴くと実に良い)。これも最新のR&Bのトレンドを組み込んだりしていて、派手な感じはしないのだが、落ち着いた意欲作、という感じがする。
KIRINJI『愛をあるだけ、すべて』アルバム・ダイジェスト映像
SOUVENIR [LP] (IMPORT) [12 inch Analog]
- アーティスト: VIDEOTAPEMUSIC
- 出版社/メーカー: 180GR RECORDS
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王舟 & BIOMAN、そしてVIDEOTAPEMUSICの2枚のアルバムは、似た雰囲気をもった作品だったと思う。窓を全開にして風を部屋に招き入れ、自分で淹れたアイスコーヒーでも飲みながら聴きたくなるような「無国籍のワールド・ミュージック」。こういう音楽をやりたいなー、と永遠に夢想し続けている気がする。
Peter Pears: Balinese Ceremonial Music
- アーティスト: Thomas Bartlett & Nico Muhly
- 出版社/メーカー: Nonesuch
- 発売日: 2018/05/18
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ワールド・ミュージック的なキーワードでは、トーマス・バートレットとニコ・マーリーのアルバムも良い感じであったなぁ。コリン・マクフィーという作曲家が採譜したガムランの楽曲と、このふたりによる楽曲がコンパイルされたコンセプト・アルバム。どちらのミュージシャンもこのアルバムで初めて聴いたのだが、ガムランが空間や時間を離れて聞こえてくるような素敵な作品である。
それからギンガのインスト集も良かったなぁ……。
もしかしたらPrefuse 73の新譜も「無国籍のワールド・ミュージック」のように聴いていたかも。
土岐麻子の新譜は前作の延長線にあった。車で聴いていて「ん〜、この人が歌う曲の『土岐麻子っぽさ』ってすごいよな」と改めて感心する。シティ・ポップ的なもの、J-Wave的な場所、に位置づけられるシンガーだと思うのだが、ここまで来ると、なにか孤高にも思える。ブレてない。
ブレてないといえば、ジョニー・マーも全然変わんないね……。
COLLAGICALLY SPEAKING [2LP] [12 inch Analog]
- アーティスト: R+R=NOW
- 出版社/メーカー: BLUE NOTE
- 発売日: 2018/07/20
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ロバート・グラスパー、テラス・マーティン、テイラー・マクファーリン他による「今ジャズのオールスター・バンド」。参加ミュージシャンがどういう人たちなのかは、Apple Musicのこちらのプレイリスト(4時間弱にもおよぶ長大なもの)でチェックすると「なるほど、こういうシーンがあるのね(こういう人たちなのね)」ということがつかめる。
テラス・マーティン、テイラー・マクファーリンは大好きで、グラスパーはなぜか全然ハマれないわたしなのであるが、このアルバムもイマイチハマれず。でも、クリスチャン・スコットの名前をここで初めて覚えて「すげー良いね」と思ったりしたので、ある種の情報のハブとして使えるアルバムだったのか、とも思う。
今ジャズ、といえば、こないだもミニアルバムを出したばっかりじゃねーか、というカマシ・ワシントンのセカンドがすごかった。ファーストもすごいヴォリュームだったけれど、セカンドも2時間半ぐらいある。アナログは4枚組である。ポピュラー・ミュージックのアルバムは、40分ぐらいのサイズ感がちょうど良いと思ってるので、この長さには正直うんざりしてしまうのだが、内容の濃さはすごい。カレーハンバーグ天ぷら定食(味噌汁の代わりにビーフシチュー付)みたいな。「こんなのジョン・コルトレーン / ファラオ・サンダースの焼き直しじゃないか」とも思ってしまうのだが、それだけじゃなくて、マイケル・ブレッカー的な極めて高度かつシャレオツな曲も収録されていて、なんなの……という感じだった。
そしてジョン・コルトレーンの「新譜」まででてしまう、という2018年。すでに評価が定まった人の、蔵出し音源って往々にして「あってもなくても良いもの」っていう感じがしてしまうのだが、これもそういう音源。カタログに新たな音源が増えても、その人の株価にまったく影響を与えない。こんなのありがたがるの『スイングジャーナル』読んでたオッサンだけじゃないのか!? そういう層に新規参入者はいるのか……!?
最近K-Popへの関心が薄れていたのだが、大きな衝撃を受けたのがAshrockという韓国インディーのネオ・ソウル・バンド。さすが首都がソウルってだけあるよね、と発声しただけで2億円の負債を抱えそうなダジャレを思いついてしまうのだが、凄まじいセンス、凄まじい上手さ、凄まじい曲の良さ。リオン・ブリッジス的なR&Bのレガシーを受け継いだ新人かと思ったが、これが今のK-Popのすごさですよね……と腰が抜けそうになる。Suchmosの15倍、こっちを推しモス。
Ashrockから韓国のR&B、ヒップホップをいろいろと聴いてみたら、これがすごい鉱脈で。新しい音源ではラッパーのKantoのEPもすごく良かった。それからSamuel Seoも。
99%ぐらいのリリックや歌詞の意味が言語の障壁によってわからないのだが、上手さだけが伝わってくる。
少し前のリリースであるが、前野健太の新譜もすげえ良かった。最近、タモリ倶楽部の ちょっとスケベな企画にでてくる怪しい風貌の人、という認識しかなく、その怪しげなキャラから「大人計画にこんな人いたのか?」という勘違いもしていたのだが、その音楽を聴いて、今現在において、こんな強い言葉で歌えるSSWがいたのか、と衝撃を受けた。ちょっと星野源的な、サブカル臭が気になって、最初、これを好きになっても良いんだろうか、と迷ったのだが、良い、俺はこれを好きで良いことにした。