sekibang 3.0

Nouvelle茶人、あるいは勉強家によるブログ

網野衛二 『3分間ネットワーク基礎講座』

 

[改訂新版] 3分間ネットワーク基礎講座

[改訂新版] 3分間ネットワーク基礎講座

 

打ち合わせのなかで出たネットワークの話題についていけず、曖昧な顔をしてやり過ごしている自分が嫌になったので勉強。1セクションを3分程度で読める対話形式の技術書。正直、この手の対話形式の本って、つまんないダジャレが入ったりするサムさが苦手だったのだが(なぜ、ダジャレをいれるとコンテンツが親しみやすくなる、と思ってしまうのか)そのサムささえちょっと我慢すれば良書だと思う。セクションの冒頭では前セクションの振り返りがおこなわれ、ひとりで読む際にコンテンツの反芻を促すもの。内容としては「ネットワーク基礎」というタイトルそのままで、基本情報・応用情報で暗記した話を活きたコンテンツとして再学習するのにちょうど良い。ここからもっと足を伸ばして勉強してみたい気持ちにもなる。別にネットワーク・エンジニアをやっているわけではないのだが……。

www5e.biglobe.ne.jp

なお本書は上記リンク先のWebコンテンツの書籍化。Webでも良いと思うのだが、紙のほうがいっぺんに目に入ってくるコンテンツの量が多いので読みやすいと思う。

北村紗衣 『お砂糖とスパイスと爆発的な何か?: 不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門』をご恵投いただきました

 

お砂糖とスパイスと爆発的な何か?不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門

お砂糖とスパイスと爆発的な何か?不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門

 

現在ブレイク中のシェイクスピア研究者・フェミニズム批評家である北村さんより新刊をご恵投いただきました(ありがとうございます!)。本書はWebニュースサイトでの連載が元になっているんですが、この連載開始にあたっては、わたしが編集者と北村さんのあいだをつなぐという役目を担っておりました。そんな縁もあって謝辞にも名前を載せていただいています*1

北村さんがブログに投稿している舞台評・映画評は依然から興味深く読ませていただいておりました。「こういう記事、ちゃんと金もらって書いたら良いのにな」と思っていたので、今回のアウトプットのプロセスに少しでも関わることができ個人的にも嬉しいところです。売れ行きも好調みたいですね!

saebou.hatenablog.com

*1:写真。 リンク先の2枚目

ケンドー・カシン 『フツーのプロレスラーだった僕がKOで大学非常勤講師になるまで』

 

90年代最末期から2000年代のプロレス界を大いに賑わせた覆面レスラー、ケンドー・カシンが半生を語る。基本的に格闘技関係の本には面白くないものが少ないのだが、カシンの奇行癖や物言いに魅せられたファンにはたまらない名著であろう。中学の帰宅部から猛烈な練習量と劣悪な人間関係で最強最悪な高校のレスリング部に入部したところから語りはじめ、新日本プロレス時代、総合格闘技デビューから、全日移籍、そして現在に至るまでのフリー時代が、カシンの目線から「え、こんなこと話しちゃって良いのか」という裏側まで暴露されている。

とくに興味深いのは総合格闘技参戦への絡み。優勝トロフィーを破壊、王座認定状をその場で破る、など傍若無人とも言える行動が知られる「はぐれもの」のキャラクターが、会社都合、業界都合、そしてアントニオ猪木都合によって翻弄されてきたことがわかる。この記述は、新日本プロレス暗黒時代、というかプロレスという格闘技自体が総合格闘技ブームに押され低迷していた時代の歴史的証言として大変重要なものになるだろう。総合で7戦やって1勝5敗1分というケンドー・カシン石澤常光)の芳しいとは言えない戦績は「直前になってまったく情報や準備がないままマッチメイクが組まれる」、「総合もプロレスもでる(プロレスの興行を休ませてもらえない)」など常識(?)では考えられない事情が大いに絡んでいるように思われた。要するに、必要な試合数を埋めるための「総合もできる便利な選手」として使い倒されているのだが、その無茶苦茶なニーズに応えるところがこの選手の表には現れない真面目さなのだろう。

「オレは別にいつ辞めたっていいしね。全然プロレス界に必要な人間じゃないし。潰すか潰されるか、それだけだ」 

上記はWikipediaにも掲載されているケンドー・カシンの名言。この言葉からも読み取れるように、カシンの語り口はいつもどこか冷めている。当事者でありながら、第三者目線、というか、批評家目線をカシンというレスラーは内在しているように思われた。プロレス自体を異化・脱臼させるような発言・行動もそういうところから生まれているんだろうな、と。そうした意味ではやはりこの人は「フツーのプロレスラー」では全然ないんだけれど。

ヤーコプ・タウベス 『パウロの政治神学』

 

パウロの政治神学

パウロの政治神学

 

カール・シュミットフランクフルト学派とも親交をもったユダヤ学者が死の直前に教壇から語った講義録。パウロによって書かれたとされる新約聖書の「ローマ書」から、後世にさまざまに解釈されたことによって付与された意味づけを剥ぎ取り、パウロの原初的な読み直しを試みようとするもの……なのだが、前提知識が多くて、わたしにはちょっと難しかった。原著の編纂者たちによる「後書き」(本文と同じぐらい長い)から読むと良いのだと思う。こういう本をじっくり読書会とかで読むような時間を持ちたい。

千葉雅也 『アメリカ紀行』

 

アメリカ紀行

アメリカ紀行

 

2017年から2018年にかけて4ヶ月間のアメリカ滞在の記録、記憶、小説的な、哲学的なエッセイ。知識人が洋行体験をテクストにすること、これ自体はとても伝統的な形式だと思うのだが、過去のテクスト群が海外のカルチャー、政治、人間、土地の模様を紹介するものだったのに対して、本書は「アメリカ紀行」でありながら常に日本が参照されつづけ、両国の関係性のなかで浮かび上がる思考が転写されているところに特徴を感じる。時折、唐突に挿入される日本のテレビの記憶や、日本人が見知ったイメージは顔を綻ばせるものがあるし、問題を一貫して論じていくスタイルではなく、断片的に提示していくところも「今の気分」っぽい。つぶやき的。ふと「断片的」というキーワードから岸政彦を思い出すも、その断片化はまるで違う水準でおこなわれている。まだ、なにが違うのかを明確に書けないけれど、思考の断片化と断片的な生の記録の違いなのか、あるいは記録するものと記録されたものの違いなのか。

谷崎潤一郎 『細雪』

 

細雪 (中公文庫)

細雪 (中公文庫)

 

古今東西の大長編小説のクラシックをあまねく制覇してやりたい、という気持ちに数年来断続的に取り憑かれている。それで谷崎の『細雪』に手をつけた。わたしはこの作家について「好きな人はめっちゃ好きだよね〜」ぐらいの認識でしかなく『源氏物語』の現代語訳という大仕事しか知らなかったのだが、今回代表作のひとつとして知られる本書を読んで「谷崎、ヤバすぎ! 面白過ぎでしょ!!」とイチイチ驚愕しながら読むはめになった。中公文庫で1000ページ近くある大長編なのだが、管見の限り、近代日本の小説で一番面白い小説に今回出会ってしまった感がある。

時は昭和十年代のなかば。阪神地区の良いところで昔はめちゃくちゃ羽振りが良かった旧家、蒔岡家の四姉妹、そのうち三番目の娘である雪子の嫁入り話を中心にストーリーは進んでいくのだが、この1000ページ弱のなかには、ややこしい恋愛やら人間模様やらが濃密に描きこまれており、さらにはディザスター・ムーヴィーばりの活劇さえ含まれるのだから恐れ入る。当時のカルチャーやファッションも事細かに織り込まれており、固有名詞の用い方なんか村上春樹みたいにも思うのだが、その詳しさはなんだかおじさんなのに女子ファッションに詳しすぎてキモい、けどスゴい、つまりキモスゴいことになっている気もする。また、本書のなかには映画のタイトルもよく出てきて、作家も映画にはかなり親しみをもったに違いないと思うんだけど、映画のワンシーンから拝借したような映像的な筆致にも「文章うめーな!」とバカの感想を漏らしたくなる。

前述のとおり、「雪子の結婚」が本書の中心主題となるわけだが、実は雪子自体はとくになんもしない小説とも言える(そのなんもしなさが波乱を生んだりする)。本当の主人公は雪子の結婚のために奔走するそのひとつ上の姉、幸子であり、その夫の貞乃助であって、この夫婦が色々気苦労したりする様子は、30代も半ばに差し掛かったわたしには、すごくよく共感できた。

柳井正 『成功は一日で捨て去れ』

成功は一日で捨て去れ (新潮文庫)

成功は一日で捨て去れ (新潮文庫)

 

ユニクロの創業者による著作。『一勝九敗』は2003年までの振り返りだったが、本書は2004年から2009年までの振り返り(文庫化にあたって2012年までの年始挨拶メール*1を収録している)。フリースによる大ブレイク以降の話であって「安いけど、やっぱちょっとダサいよね」のユニクロから「ユニクロってなんかもう普通にオシャレだよね(そんなに安くも感じないし*2)」という感じへの移行途中までを追っている。ユニクロのスキニージーンズやブラトップ、ヒートテックといった新商品がどのようにして生まれたかなどの話は、個人的にも懐かしい感じであって「平成の国民服」が生まれたプロセスはまさにこの時期にあったんじゃないか、と思う。

本書のエッセンスはタイトルどおりであって、とにかく「成功なんか早く捨てて、新しいことをやらないとダメ。常に改善していかないと会社は潰れる。安定経営なんかありえない」という話を繰り返ししており、「世間様では成功してると評価されているけど、ウチの会社はココが全然ダメ!」と世の中に向けてダメ出しを全開にしている。著者のため息レベルの上がり方は『一勝九敗』以上とも言える。

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sekibang.hatenadiary.com

 

*1:著者が全社員に向けて送る恒例行事

*2:この感覚は一般庶民の生活が苦しくなってることの反映でもあると思う