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文化的消費活動の日記

阿部和重 『ピストルズ』

 

ピストルズ 上 (講談社文庫)

ピストルズ 上 (講談社文庫)

 
ピストルズ 下 (講談社文庫)

ピストルズ 下 (講談社文庫)

 

阿部和重の「神町サーガ」が今年の初秋に完結する、と伝え聞き、長らく積ん読していた『ピストルズ』に手を付ける。2010年に単行本刊行だから、もう10年近く前の作品か……。雑にまとめるなら、謎めいた四姉妹の次女が語る壮大な一族の歴史、ということになるだろう。資料の積み重ね、過去作品の登場人物の登場など技巧的で重厚だ。現実の事件・風俗を絡ませつつ、サイケデリアな彩りがある*1。一方で物語の核は冒険活劇(代々伝わる一子相伝の秘術が四姉妹の末娘へと美少女へと受け継がれる、という『北斗の拳』みたいな話)なのであって、これは純文学の顔をしたエンタメ小説だよなー、と。しかしながら、特徴的な本書の大部分を占める語り。この語り口が異常に上品で、まるで叶姉妹よりすごいスーパー叶恭子みたいな人が喋っているよう。そうであるがゆえに物語の速度がひどく鈍重に感じられた。すげえ、けど、ダルい読後感。

*1:そこがめちゃくちゃトマス・ピンチョンっぽい。作中のBGMとしてサイケ・ロックの曲名がやたらと選ばれているし