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文化的消費活動の日記

ルー・テーズ 『鉄人 ルー・テーズ自伝』

 

 16歳でデビューし、74歳まで現役を続けたプロレス界の「鉄人」、ルー・テーズの自伝。プロレス・格闘技関連の本には基本あまりハズレがないのだが、本書も面白かった。デビューが1933年、現役最後の試合が1990年だから、戦前から20世紀末までプロレス界に身を置いた人物の話なので、面白くないわけがない。戦前のアメリカのプロレス業界が、戦後に組織が統一されていき、テレビの登場によってプロレスの内容自体が「テレビ映えするもの」へと変遷していくところが読み取れる点がとても興味深い。一種の歴史書、とも言えよう。

テーズ自身は結構地味、と言えるほど真面目な人っぽい感じが伝わってくるもの良かった。怪我で長期休場を余儀なくされているあいだに養鶏場でアルバイトをしていた、とか書いてあって。すでに世界王者を経験しているレスラーが、一生懸命ブロイラーを育てていた姿を想像すると、かなり楽しい。

なお、本書はプロレス・ライターの流智美による「翻訳」という体裁をとっているが、翻訳者がかなり内容を改変している部分があると思われる(現役晩年から不自然なほど日本のプロレス界とのつながりがフィーチャーされていたりする)。テーズ自身が自費出版した自伝を元にしているらしいのだが、翻訳権の記載などどこにもなく、かなり謎。