近年は「アメリカン・ユートピア」の成功で再び脚光を浴びることとなったミュージシャン、デヴィッド・バーンの第2著作。初版は2012年で、翻訳は2017年のペーパーバック版を底本としている(ので「アメリカン・ユートピア」の話はでてこないけれど、著者のコンサートとショーを一体化させるアイデアについては本書のなかでも語られている)。第1著作(Bicycle Diaries, 未邦訳)はタイトル通り、彼の自転車愛が詰まった本だと聞いているが*1、本書もまた一筋縄ではいかない……というか、なんでこんな本書いちゃってるんですか……と驚愕したくなるほど広範な内容を扱っている。
自伝的な内容も含めながらテクノロジーの発展と音楽制作方法の変遷が語られたり、音楽ビジネスの契約まわりについて事細かに解説していたりするのはまだわかるとして、音楽学や音楽社会学なども射程に収めており著者の圧倒的な知性が示されている。さすがカエターノ・ヴェローゾをリスペクトしているだけある。カエターノの自伝も思想家の名前がわんさかでてきたが、本書でもアドルノの名前が何度も登場し、ロバート・フラッドのようなルネサンス期の知識人やメイナード・ケインズなど多彩さにおいてはまったく引けをとらない。これだけの内容だと翻訳は山形浩生の訳で読みたいところだ。