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文化的消費活動の日記

スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ 『戦争は女の顔をしていない』

 

戦争は女の顔をしていない (岩波現代文庫)

戦争は女の顔をしていない (岩波現代文庫)

 

2015年のノーベル文学賞受賞者の第一著作。対独戦に従軍した/パルチザンに参加したソ連の女性たちに取材し、その語りを記録したもの。著者によってストーリーとして構成されているわけではなく、解釈や意味づけなどもおこなわれていない。カテゴリーごとの配置が最小限行われているだけで(内容的に相応しい言葉かわからないが)豊かな語りの並びに出会うことになる。岸政彦による『断片的なものの社会学』が想起されるが、筆者の存在感、控えめさはずっと希薄だ。

「戦争は女の顔をしていない」。本書のタイトルが意味するのは「戦争は女性向けのものではない(女性にとって男性よりも過酷なものだ)」というだけでなく「戦争の歴史/記憶/語りから、女の存在が隠蔽/抑圧されている」ということでもある。むしろ、本書でまずはじめに語られるのは「正しい歴史」から排除される女性の存在である。この問題は、従軍体験を語る女性自らが自らの語りを記録から排除しようとしたことから、より複雑である。男によってだけでなく、女からも「女の顔」が隠されている。

ノーベル文学賞、といえば、日本ではすぐ「村上春樹」の話になるけれど、その関連でいえばオウム真理教による無差別テロを取材した『アンダーグラウンド』に近い性格を持つように思う。埋もれた記憶を掘り起こすこと。その作業が苦痛を生むこともあれば、語られることで癒しや解放を生むこともある。ノンフィクション作家の受賞は彼女が史上初なのだが、正直これまで読んだノーベル文学賞作家のなかで(大して数を読んでないけども)もっとも感銘を受けた一冊かも。単に「いまの気分だった」ということかもしれないけれど。