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文化的消費活動の日記

オノレ・ド・バルザック 『幻滅: メディア戦記』

 

19世紀のフランスの田舎町(アングレーム)とパリを舞台にした長編小説。バルザックは初めて読んだのだが、めちゃ面白い。とくに本作では製紙業やジャーナリズム、出版業をネタにしており、急にフランスにおける製紙技術の歴史が開陳されたり、あるいは当時の手形取引について詳述されたりして(メルヴィルの『白鯨』をサイエンス・フィクションと呼ぶ流儀に従うならば)SFのような面白さがある。素直に読めば「業界小説」というか「ジャンル小説」という枠組みに収まるだろうけれど、そう言う読み物を19世紀に手がけていたバルザックという作家のすごさに慄いてしまう……のだが、いや、しかし、長い……! 上下巻で900ページ超あって「さすがに話を引っ張りすぎでしょう!!」となったし、終わり方も主人公をあの手この手でハメようとしてくる悪意のある人物たちが大勝利を収める、というオチなので「おい!!」となった。だが、その采配こそがバルザックの「人間喜劇」ということなのかもしれない。一生懸命やってる、善意の人物がまんまと悪人にハメられる。得手してリアルな人生もそういうもんだし……。フランス社交界の描写もプルースト読みには面白かった。