間違いなく、いま最も生産的な書き手の一人であろう著者の新刊。「プロローグ」によれば、いろんな雑誌やメディアに掲載された文章を集めた、OASISの『The Masteplan』になぞらえられるような「裏ベスト」的な一冊である、という。著者からいただいたから、という贔屓目なしで、これまで読んだ著者の本で一番おもしろく読んだ。
副題にある「ジェンダー・フェミニズム批評入門」という文言は、どのへんが入門なのかよくわからないが(端的にマーケティング的につけられた惹句、という感じであってこの文字列から予想されるようなHow To的要素はない)正確には「たのしいジェンダー・フェミニズム批評」ぐらいが適切だろう。取り扱われている英文学作品や映画のほとんどをわたしは読んできていないのだが楽しく読めてしまう。これは驚くべきことだし、批評家としての筆者の発信力にあらためて感服する点だ。
コンプレックス的な部分も含めての筆者のプライヴェートな部分が他の本よりも露出している点も本書の面白さのひとつだ。批評でありながら、オタク女子(と著者を一般化するのは不適切かもしれない。少なくとも著者の趣味が「一般的なオタク女子」の「界隈」と微妙にズレていることは複数回語られている)の感性があきらかになった優れたエッセイ集のようにも読める。著者がいつか書きたい、と記している「宮沢りえ論」。これを読める日がくるのが楽しみだ。