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文化的消費活動の日記

鴨長明 『方丈記』

平安時代の末期から鎌倉時代を生きた人物、鴨長明による随筆。このちくま学芸文庫版は原文を通しで読ませるパートを独立させ、それに加えて、原文を適当な段落で切って、訳を挟み、さらには詳細な解説をつけて読ませる構成。この解説については、鴨長明の文章をあまりに現代的に引きつけすぎている部分もあるものの、同時代の著作と比較して歴史的な事実性を検証していたり、あるいは鴨長明が文章を書いたときに参考にしているもの(古い和歌などを下敷きにした教養ある文章が表現されている)を教えてくれたりするので大変有益。筆者に関する伝記的事実も補完されている。

本書の解説によれば、鴨長明という人は音楽や歌の才覚もありながら、仕事もできる人……であったにも関わらず、いろいろあって本人が思ったような就職ができなかった人であるらしい。生まれもっての世捨て人……では全然なくタイトルにある方丈庵に住んで「ミニマル・ライフ最高!」みたいなことを書いているのは晩年、60歳以降のことだ。そこでも別に悟りきってるわけではなく、「たまに都のにぎやかなところにでたりすると自分が乞食として身をやつしていることが恥ずかしくなっちゃう……」みたいなことをも書いている。正直で大変おもしろい。

序盤は筆者がかの方丈庵に住まう以前の平安京にておこった大火事、地震、竜巻、疫病や飢饉、さらには平清盛による福原遷都による混乱が克明に描かれており、本書を「災害文学」として読む向きもあるようだ。いろんな読み方ができる本だと思うのだけれど、個人的に一番関心を惹かれたのは、福原遷都のくだりに、平安京の建物を解体して川に流し、福原まで運んだうえで新都の建物を作るのに再利用した、という話がでてくるところ。めちゃSDGsじゃん! って思ったし、こういうのは木造の文化だからこそでてくる話だよなぁ、と思う。