sekibang 3.0

文化的消費活動の日記

川上未映子 村上春樹 『みみずくは黄昏に飛びたつ』

みみずくは黄昏に飛びたつ

みみずくは黄昏に飛びたつ

 

近年の村上春樹の著作刊行ペースって長編がでると同じタイミングで別な少しライト目な本もでる、みたいなのが続いている気がする。本書は『騎士団長殺し』にあわせての、川上未映子によるインタヴュー本。これまでに自身の作家論的なものをまとめた『職業としての小説家』『雑文集』に収録された作家の声とは違ったスタイルで、村上春樹の姿が映った本だと思う。雑な表現をするならば、初めて村上春樹が俗世界に降りてきて語っているな、と。エッセイなどでくだらないことを書き散らかしている人ではあるけれど、くだらないことでさえ、村上春樹モードというか、ワールドのなかで展開されていた、それが下々の者が棲まうこの世界に引きずり降ろされている、というか。

それを可能にしているのが、聞き手の川上未映子の優秀さ。あたかも超一流のクラブ嬢のようなコミュニケーションで村上春樹に迫っている。相手のリサーチはとことんやるし、相手から言葉を引き出す的確な質問を投げる、さらには適度なタイミングで相手に突っ込みをする(またまた〜、村上さんったらヤだわ〜、みたいな)。

とくに『騎士団長殺し』ができあがるプロセスについての部分は、本書の帯にあるとおり「作家にしか訊き出せない」類のものである、と思う。同じ作家同士だから出てくる細かい部分(何回書き直してるんだ、とか、どんな風に描き進めているんだ、とか)を質問していて、大変興味深く読んだ。作家がひとりで物語の世界を作っている、のではなく、編集者や校閲部といった出版社のスタッフがその世界の成立を支えていることが明らかにされ、チーム(本書の言葉を借りると「村上春樹インダストリーズ」)で仕事を進められているんだな、とか、EGWord使って書いてるんだ! とか。

細かいところだと中上健次の名前が何度か出てくるところも気になるところ。「中上健次没後、文壇のメインストリームがなくなっちゃったよね」的な、日本文壇に対する一般的な了解のようなものを村上春樹も持っていたんだな、と思う。

騎士団長殺し』の解釈や気になる点についての質問も「そうそう、そこ気になってたんだよ!(主人公、36歳で貧乏なのになんで皿見て古伊万里、って気付くんだよ! とか)」と、わたしが思っていたことと重なる部分が多く、川上未映子に対する「村上春樹ファン代表」の信任投票があるなら「信任」を選びたい。