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文化的消費活動の日記

川上未映子 『ウィステリアと三人の女たち』

 

ウィステリアと三人の女たち

ウィステリアと三人の女たち

 

表題作の中編と3つの短編を収録。それぞれの話はストーリー的にはなんの関連もないし、見事に読み口や手法がバラバラなのだが(最初の2篇「彼女と彼女の記憶について」と「シャンデリア」は、超高級ブランドの固有名詞が登場するところだけ似ており、その部分が菊地成孔が書く文章みたいに読めてしまう、いや、川上未映子菊地成孔ゴーストライター説、それ、あると思います、もちろん冗談ですが)、ゆるやかなつながりを見出せる、ここに登場する女性の主人公たちはみな、なんらかの傷や闇、痛みを抱えている。乱暴な感想に違いないが村上春樹の『女のいない男たち』を想起したのは、この作品集が「男のいない女たち」に読めて仕方がなかったから、それから作品の持つ雰囲気が似ていたからだ。わたしはこれまで著者の作品について初期のエッセイと処女小説しか読んでいなかったんたんだけれど、およそ11年後に発表された本書を読んで「この作家が、こうなったのか!!」と大いなる驚きをもって読んだ。ちょっと久しぶりに夢中で読んだ小説かも。冒頭の「彼女と彼女の記憶について」。前述した通り、この作品では主人公の高いプライドを伝えるように超高級ブランドの固有名詞が登場する、なんか嫌な女の自意識小説か、そうか、とここまでは11年前の作品からの延長のように読めるのだが、そこ、からの怒涛のホラー展開が凄すぎて。どの作品も明確な謎解きやオチめいたものが提示されるわけではない、のだけれども、すごい。とくに表題作。これは不妊治療の話が出てきたり、モラハラっぽい夫と主人公、この夫婦の関係性をめぐるリアリズムを期待させておいて、ミステリアスな過去の記憶へとリニアに接続されていく、夢のような、映画のような中編。流れがとても気持ちよく、小説という表現形態でしか味わえない愉楽を味わえる。ロジカルな積み上げから逸脱して物語が成立している、というか、そう、ふんわりとした部分を多く残しながら。と、とてつもない作家になってんだな、川上未映子、ええ、ファンになりました。