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文化的消費活動の日記

川上未映子 『わたくし率 イン 歯ー、または世界』

わたくし率 イン 歯ー、または世界 (講談社文庫)

わたくし率 イン 歯ー、または世界 (講談社文庫)

 

この表題作、初出が2007年、わたしが社会人になりたての頃であり、まだ「J文学」とか言ってた頃だったような気がする。当時は、ふむ、歌手上がりで、関西弁で、破天荒な感じの作品ね、それ、町田康じゃん、と思って、読む気がしなかったんだけれども、川上未映子さん、育児エッセイはすごく面白かったし、インスタも最高で、というか最高すぎて、ついに、10年ほど敬して遠ざけていた小説に手を出したのだった。律儀に芥川候補となった第1作から。

で、これ、すごい小説じゃん、って魂消ていた。メンヘラ色漂う恋愛小説、みたいに読めてしまいながらも、実にストロングスタイルの哲学の本、つまりは、私の存在とはなんぞや、ということを問いかけているみたいで。正直ですね、ナメてました、すみません、という気分に。

挙げられている哲学的な問題に対して、この本のなかで答えられているわけではないし、投げっぱなしジャーマンな荒削りスタイルではあるのだが、フレーズの強さは、まるでプラトンのようにクラシカルで。

たとえば「誰も脳なしで考えたこともあらへんくせに自分は脳とかゆうてんねん」。翻訳すれば「脳以外で考えたことがないにも関わらず、自分のコアは脳にあると誰もが思っている」。なるほど、それは確かに良い指摘、と思う。なんだかよくわからないんだけれども、これだけパワーがある処女作はすごい、ねじふせられる。ありえないことだけれども、なにも知らないころに読んでみたかった。