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按田優子 『たすかる料理』

たすかる料理

たすかる料理

 

代々木上原にある人気飲食店「按田餃子」の主宰者による著作。わたし個人はこのお店に足を踏み入れたことはないのだが、妻がファンらしく、本書も妻が買っていた本なのだった。

帯には「自炊はわがままでいい。台所にしばられず、自分らしく食べて、生きるには?」とある。通常の「食」に関する本とは一味違った食文化に関する本だと思った。ましてや「グルメ本」では決してない。 実のところ、文章のスタイルがやや苦手とする部類に属する本ではあるのだが、大変興味深く読んだのは、その「台所にしばられない」というスタイルなのだった。

現代の高度文明社会に生きている人間であれば、おおむねそのライフスタイルは「定住スタイル」であろう。なかにはホテル暮らしの人もいるかもしれないが、いかに引越し魔の人であっても、基本的には家を持ち、そこを拠点に暮らしている。そこには使う使わないを問わず、台所があり、自炊するのであれば、その台所を使うことになる。

本書が興味深いのは、台所を使って自炊をする定住スタイルのなかに、原始社会めいたスタイルが移植されているように見えるところ。台所で毎日気合をいれて「料理をする」のではなく、肉や豆をまとめて「加熱」し、味を変えながらずっと食べ続ける、そういうのが自分にはあっている、と著者は言う。

掲載されているレシピは、凝った料理、という感じではない。逆に、粗野、というか簡素である(ただし、雑でも、乱暴なわけでもない)。これにより、定住のなかで機動力が生まれていく。

行き着く先は土井善晴の名著『一汁一菜でよいという提案』と重なるのだが、方法論がまるで違っている。「品数を減らすけれども、一品一品に丁寧に心をこめる」という土井の方法論は、日常に気づきを与えるタイプの本だったけれど、本書は「え、そういうスタイルもあるのか!」という驚きをもたらしてれるよう。なにかライフスタイルが地滑りを起こしそうな怪著なのではないか、とさえ思える。

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