書店でたまたま見かけて思わず全巻その場で買い求めてしまった本。ふだん読んでいる本のカテゴリー的なところからすると意外に思われるかもしれないが、これまで工作舍の本を熱心にフォローしてきてないわたしであるけれど、これは大変素晴らしいシリーズと思った。
18世紀末から19世紀のなかば、江戸時代後期に描かれた博物学的な図を、特定のテーマで集めて、それぞれに気の利いた短いコメントがついている。ただ、それだけの本なのだけれども、パラパラとめくっているだけで、ほわわ〜んと楽しくなってくる本である。読んでいて、そういえば子供の頃、図鑑を眺めるのが好きで、飽きずに何度も読んだっけ、と童心を思い出しつつ、こういう本を楽しんで今も読んでいる、つまりは三つ子の魂百まで、的なことわざを強烈に意識せざるをえない。
とりわけ「鳥の巻」を興味深く読んだ。扱われている鳥たちには、日本で見ることのできる種類だけでなく、東南アジアやニュージランド、あるいは中東やアフリカで見られる鳥も含まれている。これらは観賞用や愛玩用に珍妙な姿形をした鳥たちが輸入されていたという事実にもとづいている(生体だけでなく、剥製も輸入されていたという)。「江戸時代 = 鎖国」的なイメージをもっていると、こうした外国からの流入物が少し意外にも感じられるところであろう。
ただ「日本には好奇心と美意識、アートとサイエンスが一体となっていた幸福な時代があった」というキャッチコピーはいかがなものか。まるでこうした芸術と博物学の融合体的なヴィジュアル文化が日本固有のもの(日本文化はすごい!)と煽るかのようだが、有名なものであれば、ピエール・ジョゼフ・ルドゥーテの『バラ図譜』のような例があるし、そもそも、日本の絵画史に写実的な表現がもたらされたのには、中国の沈南蘋の影響や、西洋の銅版画のインパクトがあったはずである。
つまりは、根元には海外からの文化の流入が存在しながら、独自の文化が育まれていったわけであって、ちゃんとこのへんの歴史的な経緯を掘り返したほうが、当世のグローバリズム的な時流に乗っかっているのではないか、と思う。世界のなかの江戸の文化、みたいな感じで。
ぶつくさと書き連ねたが、大変良いシリーズなので、ぜひバカ売れしてこの先も続刊が出て欲しいものである。新書サイズで場所を取らないのもグッド。