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文化的消費活動の日記

栗野宏文 『モード後の世界』

 

モード後の世界 (扶桑社BOOKS)

モード後の世界 (扶桑社BOOKS)

 

ユナイテッドアローズの栗野宏文による初の著書。自伝的記述や創業に関わったユナイテッドアローズの社史、ファッション批評と社会批評が組み合わさったような内容で、タイトルの大きく構えた感じとは裏腹に、これと言ってなにか目新しい主張がおこなわれているわけではない。著者が男性ファッション誌で「スーツにニューバランスのスニーカーを合わせる」というスタイリングを「最近はコレばっかりですね」みたいに言ってたのが妙に記憶に残っており、そこから「スーツにNBの人」という一面的な印象を持っているのだが「クリエイターではなく、なんか良い感じの組み合わせを見つけて上手いこと見せる人」ってことなんだろうな、それは小売の人らしさであり、バイヤーの人らしさなのかもしれない。本書にもそうしたセンスが貫かれているようにも思った。読後感は、ファーストリテイリング柳井正の本に、松浦弥太郎を掛け合わせたようだ。つまんねー、って感じの本ではない。著名なデザイナーがどういう文脈からでてきたのか、という記述は歴史的なものとして面白いし、「日本ではファストファッションが流行らない」という分析(ユニクロや無印をファストファッションではない、として、日本から撤退していった海外のファストファッションSPAとは明確に区分する)は、自分の消費者感覚を見透かされたような記述でもあった。