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文化的消費活動の日記

横田増生 『ユニクロ帝国の光と影』

2011年に刊行されたのち、UNIQLOを運営しているファーストリテイリング(FR)から名誉毀損で訴訟を起こされている本(結果はFRの全面敗訴)。その後、著者はUNIQLOへの潜入調査を敢行し、続編『ユニクロ潜入一年』を出している*1UNIQLOを扱った本としては過去に創業者である柳井正自身の著作でその徹底したカイゼン志向とシバキ主義に感銘を受けつつ、異常な成長への執着を面白く読んだが、本書も柳井自身の著作に並ぶほど面白い。柳井正の異常者めいたエピソードが満載でUNIQLOに興味を持ったら間違いなく最初に読んだほうが良いだろう。

気になっていること/わからないことは徹底的に取材で明らかにしていくパワフルな取材姿勢は圧巻の一言とも言える。柳井正の同級生やUNIQLOの元従業員、あるいは秘密とされていた中国の工場従業員などのリアルな声を集めながら、UNIQLOの裏側、そして柳井正人間性を浮き彫りにしていく。柳井の父親が暴力団と関係を持つ「地元の顔」的な人だった点などを直接インタヴューで質問する痺れるような展開もあるのだが、デフレ下の日本で圧倒的な成長を遂げた大企業の創業者が、昭和のかなり泥臭い、清濁併せ呑むような環境で生まれ育った事実がよりこの経営者への興味を掻き立てられた。

少し前のことになるが、FRが開催している人材募集イベントに参加したことがある。それは中途社員を募集しているセクションのマネージャー・クラスからの説明会・座談会的なやつで、冷やかし半分、半分本気*2で参加していたのだが、そのなかで「SDGsの観点や途上国の工場での労働条件など、ファストファッションの会社で働くことが社会通念上、というか倫理的に必ずしも善とは言えない面があると思う。その点をどのように捉えているか」みたいな質問をさせてもらった。「柳井さんという人は本当に潔白を求める人で、悪いことは絶対許さない人」というのが先方から回答だ。本書で引用されたり、直接取材で得られている柳井正の言葉を読みながら、その言葉を思い出していた。純粋、であるがゆえの異常性、なんかそういうものをこの経営者には感じる。

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*1:この著者の著作にはほかにもAmazonやトランプ支持者への潜入調査など興味深いものが多くいずれ確認したい

*2:なにしろ、FRの給与水準はコンサルティングファームとほぼ同水準であり、自分がコンサルから事業会社に戻るなら「ここならアリかな」と思える条件でもあった