sekibang 3.0

文化的消費活動の日記

ロラン・バルト 『偶景』

 

バルトの死後出版のひとつ。60年代末のモロッコで書かれた断片的なテクストや、79年(死の前年)に日記形式で綴られた文章などを収録している。「偶景」というタイトルはフランス語の「incedent(アンシダン)」から来た造語で、とりとめもない瞬間の情景、みたいな意味。素晴らしい本だ。解説によれば、バルトはこれらのテクストを「ロマネスク」として構想していたらしい。「ロマン(小説)」ではないもの。小説から小説的なもの、要するにドラマ的なものを排除した小説的なテクスト。プルーストの意識のながれだけを抽出したようなテクストの連続はただひたすら気持ちよく「いまの気分」の本でコレを品切れのままにしておく版元がまったく理解できない。モロッコの様子などは、今日的には分別盛りのフランスの知識人が、途上国の若者を性的に搾取するような構図に溢れており問題もなくはないだろう。だが、その差別的な構図を差し置いても、オヤジ世代にあるバルトが若さを、若さの性的な消費を諦めていく、その哀しみには文学的な価値を認めざるをえない。最高だ!