『現代思想入門』の流れで千葉雅也の『オーバーヒート』を読み直したくなり、雑誌掲載のもので読んではいたのだが、改めて単行本を買い求めたのだった。表題作の「オーバーヒート」とともに短編「マジックミラー」を収録している。
表題作の読み直し、これが実に面白かった。京都の大学で哲学を研究している主人公(同性愛者で、年下の恋人がいる)の日常から、物語が泡立っていくような物語の運び、ときに吹き上がる汚言症的なフレーズのリズムが実に魅力的で、そうした主人公の生に、彼が生活する、あるいは通過していった土地の風景、そしてそこから読み出される意味が重ねられていく多層的なテクストであると思った。良い。バルトの『偶景』にも連なる散文。Incidents(アンシダン)。