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文化的消費活動の日記

千葉雅也 『エレクトリック』

千葉雅也の最新作。文芸誌に掲載されたときには読めなかったのだが(手に入らなかった)ロラン・バルトがついに達成できなかったロマネスクを引き継ぎながらサスペンス的なロマンに結実させた作品であるように思う。舞台は1995年の宇都宮。エヴァンゲリオン、インターネット、地震オウム真理教といった時代の描かれ方は、わたしにとっても馴染みが深いものであり、大げさな言葉を用いれば「我らの時代のプルースト」のようにも思える。冒頭の文章の「置き方」、続く2つ目のパラグラフまでの謎めいた描写をその次のセリフによって謎解きする導入部からして、圧倒的な同時代性を感じさせ、それだけで感動的である。管見の限り「あの」アクションが文章化されたものは本作が初めてだろう。文章によって提示された宇都宮の地理の詳細さと、遠くに配置された東京、この近くと遠くの対比についても、主人公と父親/母親の関係についても(本作における父親の存在には、スワン的なものを重ねることができるだろう)、蛇腹折りのように入り組んだ時間軸についても、プルーストのように読めてしまう。incedent(アンシダン)な切断によって締めくくられるラストまで読み手を引っ張る力に満ちた小説。