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文化的消費活動の日記

新宮一成 『ラカンの精神分析』

 「ラカン入門のベテラン」としての功徳を積むため読む。手頃で入手しやすいラカン入門の本で、かなり書きぶりにはクセがあるものの良い本だと思う。類書と大きく異なっているのは、フランス(あるいはヨーロッパ)における精神分析の動向や、ラカンの生涯、そして彼をとりまく環境の紹介にページを割いている点か。

国際精神分析学会(IPA)とパリ精神分析学会(SPP)の関係、そしてラカンがSPPの会長を辞任し、あらたにフランス精神分析学会(SFP)を立ち上げ、それもさらに事実上の除名処分とされてから1964年にパリ・フロイト派(EFP)を創設する、というややこしい話に、どういう政治的な事情があったのか、あるいはなぜそんなややこしいことになっていたのか(そこにはラカン精神分析の手法が大きく絡んでいた)が、わかって勉強になる。

……のだが、これもスマートに書いてくれてないので(理論解説的な記述と伝記的な記述が途中で大きく混ざって、中盤は理論解説がずーっと続き、伝記的記述が忘れられてるのか、と錯覚するほどだ)サクサク読める感じではない。途中で数式を用いながら対象aについて説明してるのだが、それも別に数式不要じゃねえ? って感じだし。

本書の鏡像段階理論の説明は、類書のなかでも一番わかりやすいかも……と思ったが、これもラカン自身の著作や、さまざまな入門書を読んだから学習効果を感じるだけかもしれない。初手からこの本に手を付けるのはあんまりオススメできなさそう。ジジェクが言ってるように「『セミネール』と『エクリ』、どっちか一方だけ読んでもラカンはまったく理解できない」みたいな話で、この本だけ読んでも全然わかんないし、ついていけない部分が多そう。そもそも「ラカン入門の初手はここから!」みたいな絶対的なものがないからラカン入門は難しい。その難しさを改めて感じた。