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文化的消費活動の日記

吉川浩満 『理不尽な進化: 遺伝子と運のあいだ 増補新版』

ダーウィンの進化論、という言葉を知らない人はまずいないと思うのだけれど、本書はその進化論にまつわる(間違った一般)常識を丁寧に正しながら、歴史記述の方法に関する「別なやり方」のようなものを提示する一冊。地球上に存在した99.9%の生命の種の多くが生存競争に負けたからではなく、理不尽さによって絶滅する目にあっている、という大きな時間軸のなかで目の眩むような事実を提示されるところから、スティーヴン・ジェイ・グールドによる適応主義批判に端を発したドーキンスとの論争、そしてその論争の結果はグールドの敗北に終わるのだが、その敗者の意図を丁寧に見ていくことによって、歴史記述における偶然性の取り扱いに迫っていく。偶然性、たまたま、そうなっていること。言い換えれば、それは理不尽さであり、本書のテーマがグルッと一周してくる作りに感銘を受ける。