sekibang 3.0

文化的消費活動の日記

桑瀬章二郎 『今を生きる思想 ジャン=ジャック・ルソー: 「いま、ここ」を問いなおす』

 

最新のルソー入門書。ルソーの生涯をたどりながら主要著作の解説とその思想を紹介しており、その解釈については国際的なルソー業界においてもっとも標準的な解釈を参考にしているのだという。入門書レヴェルの本のなかではルソーの足取りについてかなり詳細に書かれており、またルソーが生きた時代にどのように受容されていたかについてもポイントポイントで触れられていて勉強になった。

たとえば、ルソーの代表的著作である『社会契約論』、これが近代民主主義の礎となり、フランス革命にも多大な影響を与えた……ということになっているのだが、1762年に刊行されたこの書物は、フランス革命が起こった1789年以前には全然読まれていなかったのだという。革命が起こったあとに『社会契約論』は読まれるようになり、ルソーは国民的な偉人として祭り上げられた、という事実が大変に面白く、個人的に本書における一番のパンチラインとなった。いわば革命によって発見された書物、みたいな感じなんだろうか。

本書におけるルソーの思想は、おしなべて、そのような性格で色づけられてもいる。あとから発見されるもの、ひいては「いま、ここ」を問い直すものとして。どういうことか。冒頭から著者はルソーの著作にちりばめられた謎、多様な解釈の有り様/誤読可能性、いうなれば、そうした要素が読み手が意味を生み出すための余白となることによって、ルソーは常に発見されうる存在として読みつがれ、さまざまなコンテクストを背景に読み返されるのだ、と。

なるほど……しかし、こういうのって「入門書」としてはどうなんでしょうかね、とも思うのだった。本書で提示されるルソーの読み方、解釈、これらを著者は、その誤読可能性を前提において、解釈のひとつ/これもまた誤読である、として提示する。いろんな読み方がある。それはわかった。ただ、入門者はそういう、いうなればポストモダン現代思想的な開き直り(しかも、めちゃ物分りが良いヴァージョン)を前に、座りの悪さを感じないだろうか、とも思うのだった。わかんないけど。「何でもいいよ! ルソーを読んで考えてみて!」って開かれてる本とも言えるのだけれど。

文學界新人賞の選考委員、金原ひとみさんの言葉が最高「この気軽さがコンテンツを盛り上げるのかも」→選考委員の言葉のバランスも素敵… - Togetter