sekibang 3.0

文化的消費活動の日記

ロラン・バルト 『表徴の帝国』

本当は新しい訳で読みたかったのだがずっと品切れが続いているので諦めてちくま学芸文庫版で読む。バルトが日本訪問時に受けた印象をもとに描かれた記号論的な批評的エッセイ……なのだが、いまとなってはフランスのインテリが書いた盛大な「言ってみるテスト」的な本であると思う。60年代の後半に複数回に渡って来日していたらしいのだが、日本文化に対して深い理解をもっていたわけではなく、あくまで「外人目線」で日本の表象を見ている。ほとんどトンデモ本スレスレな気もするのだが、歌舞伎の女形について書いている部分は面白いと思うし、白米を炊いたものを「御飯」と呼ぶことに御飯の特権性を鋭く指摘しているのも慧眼な気がする。

一箇所気になったのは、うなぎの天ぷらに関する記述。「(少しも煮炊きをしない)料理人が生きたうなぎをつかまえて、頭に長い錐を刺し、胴をさき、肉をはぎとる。このすみやかで(血なまぐさいというよりも)ななましい小さな残虐の情景は、やがて《レース細工》となって終る。ザルツブルグの小枝さながらに、天ぷらとなって結晶したうなぎ(または、野菜や海老の断片)は、空虚の小さな塊、すきまの集合体、となってしまう」。ここででてくるうなぎは、うなぎじゃなくて鱧なんじゃないか。骨切りされた鱧をレース細工に見立てたんじゃないか、と思う。あと「野菜や海老の断片」、これはかき揚げのことだろうか……。