蓮實先生が扱う映画や文学についてまるで疎い(にも関わらず、気になって読んでしまう)わたしにとって、これまでに読んだなかでももっとも親しみやすい著作であった。日本屈指の知性による特異なスポーツ批評。
基本的に言っていることは映画批評と同じである。日本のスポーツ・ジャーナリズムは、物語とか気持ちとかについて言及するだけで、ちっとも本質的なものであるはずの「運動」を語ろうとしない。球場の、フィールド上の運動をちゃんと見ろ、ということである。
2002年(日韓ワールドカップが開催されていたころだ)ごろのサッカーに関する文章や対談が中心となっており、言及されている選手には懐かしさしかないが(オリヴァー・カーン、マスクマン宮本、中田英寿、ロナウドの髪型!)、それが逆にこの本の「読みどき」感を醸し出している。本も寝かせておくと中身が熟成するんだな、と思った。